野生の本
「野生の本を捕まえに行こう」
高校の時の同級生、大崎くんがそう言って訪ねてきた。
彼を見た瞬間、私はこれが夢であると理解した。同時に夢であるなら楽しもうと、彼の申し出を承諾し、外へと繰り出した。
大崎くんに導かれて草むらに入れば、本当に本が飛び出してくる。草むらから飛び出るだなんて、某RPGみたいだ。しかしそのRPGに出てくるモンスターみたいに攻撃してくる訳ではないので、虫取り網であっさり捕まえることができた。
場所を移動しながら何冊か捕まえた。それらをぺらぺらとめくれば、捕まえた場所によって内容が違うことに気づく。例えば、博物館や史跡の近くなら歴史物や時代小説、化学薬品だとか微生物の研究をしてる企業の研究所の近くなら化学についての学術書やSF小説、学校の近くなら教科書、児童書、ヤングアダルト、ライトノベル……といった感じだ。
どこか既視感を覚える内容ながらも興味深い本たちに好奇心を刺激され、私は本の捕獲に没頭していく。捕まえては読み、捕まえては読みを繰り返した。大崎くんも、私と一緒に本の捕獲に勤しんでいた。
私の母校、つまりは私と大崎くんの通っていた高校の近くにやってきた。例により教科書やライトノベルがたくさんいた。
その中に、薄っぺらな本があった。コピー用紙を何枚かまとめて真ん中で折り、ホチキスで製本したような本だ。私はそいつを捕まえて、ページをめくる。それから、やはりこれは夢なのだと実感する。
今まで捕まえてきた本は、過去に私が読んできた本の内容を、適当に混ぜたような内容だった。それでもちゃんと辻褄は合っている。奇妙だった。
夢は、眠っている間、脳が記憶を整理しているときに出てくる残滓だ、という話もあったような気がする。今見ている夢こそ、そうなのかもしれない。
薄っぺらな本の内容は、大崎くんの書いた小説だった。高校時代、文芸部でただひとり同じ学年で、同じクラスだった大崎くん。それもあって仲良くなった大崎くん。
文芸部で発行している冊子に入れる予定だったショートショートだった。原稿を取りまとめている部員に提出する前に、私に読ませてくれたのだ。しかしその原稿は提出されることはなく、私はそのショートショートを読んだ唯一の人間になってしまった。
草むらに横たわる足を、しっかりと思い出すことができる。そういえば、もう九年も経つのかと思ったところで、目が覚めた。視界にはひとり、二十六歳になってしまった、私のてのひらがあった。
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