命を守ったことを謝る人
沙華やや子
命を守ったことを謝る人
わたしの実の祖父は、祖母の父親と同じ年齢でした。つまり、祖母はと~っても年上の男性と結婚したわけです。
母は祖母と祖父のことを想い出すたび、微笑んで「それはそれは仲睦まじい夫婦だったんだよ。おじいちゃんはね、おばあちゃんのことを『ママやぁ、ママやぁ』と言ってね、とてもかわいがっていた。おばあちゃんはとても幸せだったと思うよ」と話してくれます。
わたしが生まれる1カ月前に祖父は亡くなっています。わたしが生まれてくることをとても楽しみにしていたそうです
祖父は支那(現在はこの言いかたは中国の方が嫌うと聞いておりますので、この後は「中国」と記します)へ兵隊として出向いておりました。
祖父が刀を磨いているセピアカラーの写真を見た事があります。
母からきいた話があります。
祖父は酒を呑むたびに……泣き、中国の方へ謝っては泣き「そうしなければ自分が殺されていた」と言っては、謝って謝って狂ったように泣いていたそうです。
「申し訳有りません。申し訳有りません」と、泣きじゃくっていた。
言えないです。
具体的に申し上げることは控えさせて戴きます。
わたしは、祖父に代わって中国の方へ謝りたい。心から謝りたいです。
きのうは終戦の日でした。
わたしは故郷広島を思います。原爆を落とされたふるさとを。
こんな事を言ったら、もしかしたら怒られるかもしれない。
加害を起こしたアメリカ兵だって、苦しんだ人はいる筈です。
ベトナム戦争によるPTSDを、当時アメリカ兵だった人々が起こした話は有名ですね。
わたしは憎むより祈ります。綺麗事じゃなく本気で言っています。
広島で被爆した昔の友人のお父様もいらっしゃいます。ご高齢ですから、御存命かどうか今は分かりません。
むごたらしい話を聴き、涙し、怒りが沸き起こりました。
掌の中が爪で傷つきそう、拳が震える。
悲しみです。
何処の国の人であっても、関係ない。
命の尊さに差異などありません。
わたしは……日本が大好きです。わたし達は細やかで豊かな心を持ち、伝統を重んじます。努力家であり、数々の技術を世界に誇ることもできます。
それは本来世界中、何処の国も同じで、何かを振りかざし誇示しなきゃならないような話ではない筈なんです。
おじいちゃんの慟哭をわたしは見聞きしていないけれど、話を聴いたとき、胸が切れるようでした。
おじいちゃんは包み隠さずママに打ち明けたのです。
そうしなければ居られなかったのでしょう。
だが、わたしは無駄にするものかと考えました。
人一人が夢を見たところでたかが知れていますか。
そんなことはないです。
命を守ったことを謝る人 沙華やや子 @shaka_yayako
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