第4話   長く困難な旅 ― (4)

 ジミーはコンクリート剥き出しの支柱にもたれ、呼吸を落ち着けながら待った。

 時間は、秒針が刺すように流れ、やがて十五分を超えていた。


 そのときだった。影が動いた。

 大柄な黒人の男――ラッパーのような風貌、だが眼差しは氷のように冷たかった――が音もなく彼の前に立った。


「お待たせしました。本日のステージへご案内します」


 ジミーはわざと肩をすくめ、軽口を叩いた。

「驚かすなよ。……君はどこから来た?」


 沈黙。質問は宙に放られ、返ってこない。スザンナと同じだ、とジミーは内心で苦笑した。目の前の男は余計なことは言わない種類の人間だ。


「こちらへ」


 男は顎をわずかにしゃくると、支柱の裏へと歩いた。ジミーは警戒しつつも従う。そこには人ひとりがかろうじて通れる幅の隠し扉があった。


「おいおい、エレベーターで行かないのか?」


 扉の向こうには、暗い縦穴へ繋がる小さな箱――地下への昇降機が口を開けていた。


「先に」


 男が扉を押さえ、ジミーを促す。


「なんだこれは……棺桶か? 狭いな」


 ジミーが毒づいた瞬間、男の眼が鋭く光った。氷刃のような視線が突き刺さり、言葉を凍らせる。


「……君も一緒に乗るんだよな? もちろん」


 返答の代わりに、男はジミーの肩を強く押し込み、続いて巨体を折り畳んで乗り込んできた。


 扉が閉じる。

 エレベーターは唸りを上げ、岩盤を抉るように下降していった。鉄の格子の隙間からは、冷たい岩肌が高速で流れていく。


 数分にすぎないはずの時間が、異様に長く感じられる。密閉された箱。呼吸が重い。巨体の男の存在が監房の壁のように圧し掛かる。ジミーは自嘲気味に思った。監房ってのは、きっとこんな感じなんだろうな。


 唐突に、揺れが止まった。扉が開く。


 光が一気に流れ込んできた。

 目に飛び込むのは蛍光灯の白い輝き――だがその先に広がっているのは、地下に隠されたもうひとつの世界だった。


 コンクリートの天井から無数のケーブルが垂れ、壁には電子機器がびっしりと並ぶ。軍事施設か、あるいは秘密裏に運用される実験室か。


 ジミーは直感した。

 これはただの舞台裏じゃない。ヒーロー映画の秘密基地を思わせながら、その奥にはもっと暗い、現実離れした目的が潜んでいる。




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