花を手に入れた
数週間後のことだ。蝉の声も落ち着き、暑い空気の中に涼しい風が吹き始めたころ。
「付き合ってもらえませんか……」
「よろしくお願いします」
思っていたよりも早く彼女から告白され少し驚いた。もっと信用させてから交際を申し込もうと思っていたのだが、彼女は僕のことを信用してくれていたようだ。
「僕から告白しようと思ってたんだ。まさか詩織から告白されるなんて思ってなかったよ」
「そうだったの?断られるかもって不安だったんだけど、良かった」
彼女の姿はリリーを描くのに参考になった。リリーもこのような女性だったのだろうと思う。美しいひと時だった。楽しかった。
そして僕は、彼女を殺した。
エアコンから流れる冷たい風がリリーらしき女性を描く腕に当たる。その涼しい風に比例するような冷たい部屋の中でどこか納得のいかない絵を眺める。座って見たり、立ってみたり、色々な角度から見る。美術館で見た彼女と僕が描く彼女の違い、唇だ。僕のはなんというか、鮮やかすぎる。緑を混ぜて調節してみる。かなり近づいたが納得いかない。
悩みが渦巻いている頭の中で一つの嫌なことが浮かんだ。彼女がそばにいてくれたらいいのに。物にしたくなったのだ。
彼女を描くだけでは勿体ないと思った。最初はあの美しさが出てこないように。絵画の中だけで存在することを望んでいたのに。今では彼女を近くで見たい。彼女を絵画だけではなく、現実で、目の前で見ることを望んでいる。価値のある彼女をものにしたいと思った。
だから僕は彼女を殺した。死んでいる彼女をじっと見つめる。
彼女が僕の近くにいてくれるようになったのは嬉しいが、死体というものはどう足掻こうが腐敗は避けられない。死んですぐの状態でずっと置いておくことは無理だろうがなるべく綺麗な状態で置くことはできるだろう。
昔、本を読んでいた時その方法を知った。腐敗材を使用して体を綺麗な状態に保つのだ。様々な薬品を使用し、彼女の体をきれいに保つ。どんな薬品が使われているのかは覚えていなかったため携帯で検索することにした。そこで出てきたのが少女の遺体の画像だった。わりと有名ではないだろうか。眠っているように死んでいる美少女の遺体。
この少女に限らず人間を美しい状態で保存するのは難しい。
瞳は生気が失われ、まさにあの絵画のようになっていた。生気が失われても美しいのに変わりはなく逆にミステリアスさが出ている。
美しい水死体 碧海 汐音 @aomision
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