第51話【わたし視点】混沌の味

黒いもわもわ、おいしい!

でも、すごく暴れるから、食べにくい!


と思っていたら、ばっしゃーん!ってすごい音がして、壁が壊れた!

そして、そこから翼さんが飛んできた! わーい! 翼さん!

わたしが、ぶんぶん振り回されてるのを見て、助けに来てくれたんだ!


翼さんは、ぐるるるっ!て、すごく怒った音を出すと、黒いもわもわに飛びかかった!

そして、そのおっきくて硬い爪で、もわもわの腕を、地面にぎゅーっ!て押さえつけてくれた!

わあ! これで、ゆっくり食べられる! さすが翼さん、気が利くなあ!


わたしは、安心して、黒いモヤモヤを、ちゅーちゅー、吸い続けた。

んー、やっぱり最高においしい!


どんどん吸っていくと、黒いモヤモヤが、だんだん小さくなってきた。

お腹の真ん中の、ぴかぴか光る黒くて綺麗な石ころ。ビー玉さんたちが、一生懸命攻撃して、ひびを入れてくれたところだ。

ここが、一番からくて、一番美味しそう!

デザートはこれに決まりだ!


わたしは、最後に残ったひび割れた石ころに、思いっきり、ぱくりっ!

ごくん!


んーーーーっ! 最高!

今まで食べた、どんなものよりも、一番からくて、一番おいしい!

お腹の中が、太陽みたいに、かーっ!て熱くなった!


その瞬間、わたしの体がおかしくなった。

今までお腹の中に溜まっていた、ギザギザした美味しくないものが、最後の石ころの味と混ざって、ぶわーって体中に溢れ出した。

わたしの青い体は、真っ黒に染まっていく。

体はどんどんおっきくなって、なんだかすごく、暴れたい気分になった。目の前にあるものを、全部壊しちゃいたい! 赤い目が、ぎらぎら光る。


「ぐるるおおおおおっ!」

わたしじゃないみたいな、怖い声が出た。

みんなが、すごくびっくりして、後ずさりしている。こわい。やだ。


その時、ビー玉さんが駆け寄ってきた。

彼女は、怖がらずに、わたしの黒くておっきな体に、ぎゅーって、思いっきり抱きついてきた。

あったかい。

その温かさが、わたしの黒い体の中に、じわーっと広がっていく。


ビー玉さんが、何かを一生懸懸命叫んでる。

森の、木漏れ日。翼さんの、もふもふ。子供たちの、笑い声。

そうだ。わたしは、こういう「あったかい」のが好きだ。

この、黒くて、ギザギザした、嫌な感じは、好きじゃない。


あったかいな。こっちのほうが、おいしいや。

黒いモヤモヤが、すーっと消えていく。

おっきくなっていた体も、どんどんしぼんで、元の大きさに……ううん、もっともっと小さくなって、手のひらに乗るくらいになっちゃった。

なんだか、すごく疲れちゃったな……。

わたしは、ビー玉さんの腕の中で、ころんと丸くなって、すー、すー……と、安心しきった眠りに落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る