第4話

「改まって聴いたことないけど…たとえば、ふたりにとって”ブンガク”ってどういうもの? ていうかはっきりした定義とかレゾンデトルのとらえとかあるのかしら?」


 白い更紗のカーテンが午後の日差しを遮っていて、天井の空調の通底音めいたモーター音だけが、熱気に逆らって、生物の生存可能なアクアリウムのホメオスタシスを辛うじて保っていた。 その不自然さはすでに狂った地球の自然な環境に化していた。 …化け物の星の。


 「部長のも聴いたことないですね…ていうか、フミノちゃんにとって、文学って何?」 赤のしもべがタブレットを叩いてなにか書きながら、ヘリウムガスを吸ったときような変な声色を使った…特技なのだ。


「なにそれ? なめんなよ! 見た目は可愛らしくてもアタシは、”文学偏差値アプリ”のテストは満点で、LSD80超えてるんだからね!」

 「そんなのあるんですか?」

青のしもべが訊いた。  

 「Literature Standard Diviation ね! 文学アイキュー? 青山クンもやってみたら? 文学に相当造詣がないと難しいよ! 」

 「ワタシは普通のIQは180あります~EQはそれで極端に低い」

 「文学者としてはそれは最高の適性の証明だわね! まずもって社会不適応者でないとブンガクシャは無理」

 「それが部長の文学観なんやな! でも同感やな! 友人知己や交友関係が華やかなんて、読書や勉強や思索の妨げになる、寧ろ悪徳だよ~」


 さっきから何を書いているのかはわからないが、いかにもマルチタスクが得意そうな”赤のしもべ”がにこりともせずに的確に感想を挟んだ。


<続く>

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