第3話

「青」のしもべのほうは、幻想的なSFやら和風のホラーの幽玄美やらを追求する作風で、「赤」のしもべはかなりに論理的な欧米風のがっちりしたミステリーとか、「ニューヨーカー」に載っていそうな今風の翻訳小説を彷彿する、ウィットの効いた短編とかを好んで書いた。


 泉鏡花とか上田秋成…ずっとモダンになって江戸川乱歩? ”青のしもべ”こと青山怜士はそちらの妖美とか怪異な東洋神秘幻想?の方面に強くて、で、普段も無口なので、一体何を考えているのか、得体のしれないところがあった。 乱歩風の大正ロマンぽい世界に展開する殺人とか猟奇犯罪が、だんだん人間の心理的な迷宮とオーヴァーラップしていって…というような読者をけむに巻くような独特な”魔筆”の冴えで、既に一家をなしていて…文乃も一目置かざるを得ない鬼才の持ち主だった。


 ”赤のしもべ”こと赤川樹理人のほうは、対照的に、舞台も筋立てもバタ臭くて明朗闊達。 ポーやヘミングウェイはもとより、アシモフ、ハインライン、クラーク、ディック、コリンウィルソン、フィリップロス、キング、Pオースター…欧米の人気作家は軒並み網羅していて、同時代のベストセラーにも詳しかった。 東野圭吾風の、だが、さらにトリックやどんでん返しの鮮やかな印象のミステリーを書いたりできた。 人物も饒舌で口八丁手八丁という印象。 いったん自作について解説しだすと極めて能弁になり、止めどがない感じだった。



 文乃がふざけて二人のことを”しもべ”とか言うので、だんだん「ハイお嬢様」「Yes,Sir」とか、二人も”執事風”?にふるまったりするようになってきて…これもなんとなく最近の流行り?を踏襲してしまっているようでもあった。


 「和洋折衷?百花繚乱? アンタたちがどんどん最近のブンガクの傾向とか取り入れるから、『土筆』は、尖鋭的なナウい文藝雑誌みたいになってきちゃってるなあ…ホンマ羊頭狗肉やわ」


「文乃お嬢様の、四字熟語フリーキーがまた始まった」

「眼福の上に…福耳。 あっこれはヘンだな。 ワタシとしたことが」

 「なんちゅう非文学的なカンバセーション! かんばせ以外何にもない奴らだね! 」


 だんだん、レディスコミック?とかにありそうな、執事と王女のコント?じみた会話になっているのに、3人は無意識なのだった…


<続く>

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