第2話


 「でも、『文学青年』っていうタイプ? 類型? わりと多いわよね~ 光源氏なんていうのも普通に働いてはいないし、漱石の言う「高等遊民」て感じ。 遊び暮らしていてオンナにラブレター出したりするくらいが冒険で。 ジュリアンソレルなんてのもいったい存在意義皆無の遊惰なゴクツブシっていえばそれだけ、みたいな? 」


 …文藝部の部室は割と手狭で、クーラーがよく効いている。

 琴乃葉学園は私立高校で、わりと豪奢な独立した図書館があって、二階の日当たりのいい一角の、風光明媚な森と海辺、琴乃葉市の名前の湾岸全体が一望にできる部屋…ロマンチックな空想を膨らますにはもってこいの部屋が部室だった。


 土曜日の午後で、部員は文乃を入れて3人だけ。 

 典型的な文学青年タイプの、長髪痩身で、いつも思索に耽っていそうなのがふたり、何とはなしに暇をつぶしている…

 

 ふたりとも文乃に”オネツ”なのを、文乃にはとうに筒抜け?に知れていて、実際に、ラブレターもたくさんもらった。 が、率直に「告白」しているのでなしに、他の用事にかこつけてご機嫌伺いという体裁をとっているのが彼ららしかった。


 「生殖という義務のためにすべてを犠牲にしているようにしか見えない女性という種族のレゾンデトルについて、いささかの疑問を持ちつつ…」とか「芥川龍之介は私の究極のアイドルで、彼をオンナにしてみたら?というややこしい命題の小説を構想していて…」とか、ユニークなのは面白いが、?、実際、何を言いたいやら判然としないのが困るのだ。始末に負えないが、ふざけているわけでないので余計に困る。


 「部の同人誌のタイトルさあ、『土筆つくし』なあんて、田舎クサすぎない?」

 「せめて『翌檜あすなろ』とかね」

 「筆、で掛詞になっているのは面白い…」

 「ねえ、まあまだ結成3年目の新米の部活やから当分これでいいか。 初心忘るべからず、でね」


 見分けがつかないような同じタイプの二枚目の、ひとりは「青山怜士」という名前で、もうひとりが「赤川樹理人」といった。

 赤と青を混ぜて紫、と、これは3人がつるんでいることが多いので、そういう連想をしてしまう人が多い…


<続く>

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