第2話 初めてのMMB

 フィールドへと移動すると、そこは丸い空間だった。

 壁も床も真っ白で、頭上に大きなモニターがあるだけだ。

 

 中央付近には、赤夏達と喧嘩したらしい大学生グループが、腕を組んで待っていた。


「怖気づいて逃げたかと思ったぜ」

「そんなわけないやろ」


 赤夏と大学生の間に、火花が散っているのが見える……気がする。


 急に、フィールド中に元気な声が響き渡り、その場の全員が声の方向――頭上を向いた。

 

『只今より、MMBの試合を始めます!実況解説は私、実況じっきょうねねがお送りいたします!そして!今回のフィールドは――こちら!!!』

 

 その瞬間、MMBシステムが起動し、周囲が光に包まれた。

 

 真っ白い空間に、足元から木々が伸び、視界が一気に森へと変わっていく。土や草を触ると、本物と何の変わりもなく、匂いまでもが森にいるような匂いに変わっていた。


(風が……気持ちいい。ほんとに外にいるみたい)


「凄い、本物みたい!」

 

 そらが興奮気味に叫ぶと、赤夏が隣で手を腰に当てながら、胸を張っていた。


「そうやろ!凄いやろ!フィールドが展開されると広さも自由自在なんやで!」


 赤夏の言葉を聞き、そらは周りを見渡す。確かに周りは木に覆われているが、先ほど見えていた白い壁は見えず、遠くの方まで世界が広がっている。


「凄い……」


 周りを見渡していると、マイクの音が風に乗って耳に入る、全員が一斉に上のモニターを見上げた。

 

『おっと、ここで選手の情報が入ってきました!

 北陣地、中央小串ちゅうおうこぐし大学MMBサークル!

 奏者は2年生・佐藤望さとうのぞみ、楽器はヴァイオリン!

 騎士1人目は同じく2年の北村日菜子きたむらひなこ

 2人目は、これまた2年生、田中紗千たなかさちです!』


 どこから届いたかもわからない選手情報を、実況ねねが軽快に読み上げる。


『次に南陣地!

 奏者、大阪府立太陽学園高等部1年生、京野楓!

楽器はフルート!

 そして、騎士1人目は大阪府立太陽学園高等部1年、加賀美赤夏!

 2人目に、音咲奏学園、日向そら!

 おっと!これは!加賀美赤夏選手はU15世界大会でも活躍した有名選手です!

 なぜここに!?』


 その瞬間、先程感じた、どこかで聞いたことのあるような違和感の正体に気づいた。


「え!加賀美赤夏って、あの加賀美赤夏!?」


 MMBをやったことのない人でも知っている有名選手だ。

 

「なんや、今頃気づいたんか?うちも有名になったもんやな」

「せっか、ドヤ顔しとらんで、もう試合始まるで」


 楓のツッコミに赤夏は口を尖らせ、いじけたように言い返した。


「ええやん、別に」


 そんなやり取りの最中、実況がさらに声を張る。


『それでは、自分のポジションへ移動して、武器の確認をお願いします!』


 全員が自分の陣地の指定された位置へ移動を始めた。


 初めてのそらは、赤夏の後をついて歩く。


「そう言えば、武器の確認って?」

「これや」


 赤夏は手を見える所に持ってくる、すると赤く光り始め、赤いガントレットが装着された。


「え!どこから?どうやったの?」


 初めて見た光景に目をパチパチさせる。

 

「ただイメージしただけや。やってみ」

「う、うん」


 赤夏から教えてもらったとおりに、目を瞑り、頭の中でイメージする。


 自分の手に装着された、緑色のガントレットを――


 その瞬間、手が緑色に光り、ガントレットが装着される。


「出来た!」


(これが、私の……)


 ガントレットを見ながら、初めての自分の武器に心臓の音が大きくなるのを感じた。 


 武器に見惚れていると、実況さんの声が耳に入る。

 

『それでは、そろそろ試合を開始いたしますよ!準備はよろしいでしょうか!』

「え!もう?」


 心の準備を整えている暇もなく、無情にもカウントダウンが始まってしまう。

 

《3・2・1》 


『スタート!!!』


 点滅する《3・2・1》のランプと、場内に響く実況者の声。その声と同時に試合が始まる。


『両陣地、一斉に走り出したぁッ!今、試合がスタートしました!!!』


 赤夏の背中を追って走り出したが、走りながらずっと気になっていたことを口にする。


「ところで、今ってどこに向かって走ってるの?」


 その瞬間、赤夏が盛大に前方へコケた。


「しらんでついてきてたんかい!」

「うん。だって、やりながら覚えたらいいってせっかが……」

「……そおやったな」


 核に向かって走りながら、説明タイムに突入する。


「向かってる場所やけど……そら、核を奪い合うって言ってんのやから、核の場所に決まっとるやろ」

「あ、そっか!」


 そらの素直すぎる返答に、赤夏はガクッと肩を落とした。

 

『――おおっとここで、試合中にまさかのルール確認!?大丈夫か!?』


 実況のツッコミが飛ぶが、赤夏はまったく気にする様子はなく、話を続けていた。

 

「ほな、魔法使ってみよか」

「魔法!?」

「そや、まずは強化魔法や」

「強化魔法……」

「MMBシステムが起動した瞬間から、体に魔力感じとるやろ?」

「え、魔力?」


 最初はピンとこなかったが、自分の周囲にふわりと漂う”何か”に気づいた。


「これが……魔力?」

「せや、その魔力は今ただ感じとるだけや。使うことができとらんのや、自分の体に”収束させる”イメージや、やってみ!」


 言われたとおりに意識を集中させる。漂っていた魔力が、ぎゅっと体に吸い込まれ、薄い膜となって張り付く。


 そらの目と体の周りに一瞬光を纏う。


「お、ええ感じや!そのまま自分が軽くなってこの森を走り抜けるイメージをしてみ」


 軽やかに森を駆け抜ける自分をイメージする。その瞬間、体が軽くなったことがわかり、どんどんスピードが速くなる。


「すごーい!さっきまでとは全然違う、体が軽い!」


(凄い!けど…こんなスピードで上手く戦えるのかな?)


 勢いよく森の中を駆け抜ける。が――


「わっ……うわああああ!!」


 ぬかるみにはまり、前方に盛大にすっ転んだ。 


「アハハ!盛大にいったなあ」


 赤夏は手を引いてくれる。その力に引かれそらは立ち上がる。


「いたたた」

「強化魔法っちゅうのは、身体能力と防御力しか強化できんからな」

「なるほど……ぬかるみとかは自分で気をつけなきゃいけないんだ」


 その時、遠くで、木が倒れるような轟音が響いた。敵チームも核を目指して移動しているのだろう。


『各チーム順調に核へと向かっている!どちらが先に核を手にするのでしょうか!』


 そらと赤夏が気を取り直して、核に向かって走っていると、目の前に巨大な岩が現れる。


 岩は前方を完全に塞いでいた。岩を避けて進むにも、大幅な時間ロスになる。


「これじゃあ、まっすぐは進めないね」


 岩に軽く触れながら話す。


「まかせとき!」


 赤夏が拳に魔力をためると、手に赤色のガントレットが現れる、炎を纏わせ――


「はあああ――――っ!!」


 大声を上げ、拳を岩へ叩きつけた。


 その瞬間――巨大な岩は、粉々に燃え砕ける。


「え!何今の!?」


 そらは思わず目を見開いた。

 

「フッフッフ、これぞ属性魔法や」

「属性魔法?」

「せや、そらもやってみ!」

「無理無理!」

「きっとそらは風属性や!」

「それって、名前がそらだからなんじゃ」

「ええからやってみ!さっきの強化魔法と要領は一緒や、拳に風をまとわせるイメージで殴る!それだけや、簡単やろ?」

「えぇ……」


 そらは小さく呟きながら、集中し――

 

「……こんな感じ?」


 さっき教えてもらった要領で拳にガントレットを付ける。そして風が集まり始める。


 そらは目の前の木を思い切り殴る。


「はああああっ!」


 拳が当たった瞬間、目の前の木は、粉々に砕け散った。

 

「お、やるやないか!」

「ホントに風だった…」


 赤夏が嬉しそうに声をあげる横で、そらは驚く。

 そして、あることに気づく。

 

「これ、結構疲れるね……っ」


 属性魔法を使った瞬間から、先ほどまでなかった疲労感が体を襲う。

 

「そうやろ、やから、奏者のバフが必要になんねん」

「なるほど」


 そらはふと疑問に思った事を口にする。


「そう言えば、私が魔力を使えるようになったのって、試合始まってからだけど、武器は出せたよね?」

「そりゃあ、武器出すのに魔力は要らんからな」

「そうなの?でも、それって銃とか使う人って魔力なくて倒れてたりしても、攻撃できるよね?ずるくない?」

「そもそも、魔力を込めずに撃っても意味ないさかい」

「なんで?」


 そらが聞くと、赤夏は急に殴りかかり、そらのお腹に拳が入る、突然のことに驚いていると。


「どや?痛いか?」

「そりゃあ殴られたんだから、痛いに決まって……あれ?」


 そらは、殴られたところが全く痛くないことに気づく。


「魔力込めとらんからな、自動防御で普通の攻撃は通らんのや」

「じゃあ、どの武器でも本人が魔力なくなったら一緒なんだ」


 そらがまた1つMMBについて学んでいると、実況の声が響く。

 

『おーっと!!ここで中央小串大学・北村選手が先に核に到達したーーーッ!!!』


 

 

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