第11話 同じ映画を観たはずなのに

休日の午後、カーテンを閉めたリビングのソファー。

私と妹の夕夏は並んで映画を観ていた。


「真昼ねえこれどんな映画なの?」


数年前に流行った話題作で、 人間の葛藤を描いた二時間の大作。

詳細はネタバレが嫌で調べていないけど、刑事モノらしい。


「へー」


パリパリとポテチを食べていた。

折角映画を見るのだからと、私は映画館にいるかのように集中する。

相棒を欺いて捜査を続ける警察官の主人公。


物語が進み、真実を告白する場面。

心をえぐる言葉に胸を打たれ、私は思わず息をのんだ。

――ここはきっと物語の転換点なんだ。

そのとき、小さな笑い声が隣から漏れた。


「……夕夏?」

「ごめんね」


一度謝ってくれて、息を整えるためにお茶を一口飲んでいる。


「だってこの内容なら隠す必要ないのにって」


……まあ確かに?

そんなに隠すほどでは無いけど。

でもそれは結果論かもしれないし。

妹のよくわからないツボに私は呆れながらも、視線を画面に戻した。


クライマックス。

主人公が仲間を鼓舞するために声を張り上げる。

追い詰められた犯人。

凶弾が相棒の命を奪った。

画面と同じく涙でにじむ私の視界。

一方で夕夏はまた、ツボに入っているようだ。


「今度は何?」

「いや、ほんとごめん。真昼ねえが感動してるのに」


喉を鳴らして再度息を整える妹。


「だってさ、追い詰めてるんだから応援呼べば?」


……まあ確かに?

廃ビルに逃げ込んだ犯人。

出入り口塞いで待つというのが正攻法のような?

違う違う。

映画に現実を持ち込んでも仕方ない。


「……」


怒る気は無かったけど、現実的な妹にもう一度呆れた。

私には心を揺さぶる名場面。

夕夏には、どこかトンチンカンに見えていたようだ。


映画は終わり、静かなエンドロールが流れる。

余韻に浸っていると夕夏が隣で大きく伸びをしていた。


「ツッコミどころはあるけど、いい映画だったね」


その言葉に私は小さく頷いた。

ちょうどその時、玄関が開く音と大きな声が聞こえた。


「ただいまー。2人で映画?」


友達の家から帰ってきた花夜が、ひょこっと顔を見せた。


「そうよ」


ひらひらと手を振って出迎える夕夏。


「どんな映画みたの?」


暑いのだろう、冷たいお茶を勢いよく飲んでいた。

私たちは2人して少しだけ悩んで答える。


「感動的な話だったよ」

「ちょっと笑える警察物」


花夜は首をかしげ、交互に姉2人を見比べる。


「……同じ映画だよね?」


顔を見合わせたあと2人で頷いた。


夕食後、花夜も同じ映画を観ている。

自分だけ仲間はずれなのが寂しいのだろうか、微笑ましい。

観終わるなり隣で話していた私たちに振り向き言った。


「ねえ……どこで笑うの!?」


私は何度も頷き、夕夏は不思議そうに眉をひそめた。

そう!笑うところは無いよね?


「あ、でもね」


ピッと手をまっすぐ上げていた。


「犯人を捕まえるために町中で発砲とか車で暴走とか」


手を下ろして顎に手を当てて悩んでいる。


「やりすぎで現実に戻されちゃった」


……。

思わず姉2人が見つめ合う。

聞こえないように夕夏が耳打ちしてくる。


「そんなとこ気になった?」


小さく頷いて私も耳打ちした。


「私ひたすら泣いてたんだけど」


もう一度見つめ合ってから花夜を見た。

感情的な私と、理屈っぽい3女。

そして意外と現実的な一番下。

家の姉妹は似ているのか似ていないのか。

何がなんだか分からない妹が不思議そうにしている。


「え?なになに?」

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