第20話 揺さぶりたい相手

ルナはノートを閉じ、ゆっくり顔を上げる。

「……みんな、って誰ですか?」


夏の肩がぴくりと揺れる。


「数百人に好かれても、ひとりの心に届かなければ、意味はない。

 “特定の人”に響かなければ、心は動かせない」


夏は言葉を失い、鏡越しに自分の顔を見つめる。

化粧で作った笑顔は、わずかに引き攣っていた。


「夏さんが一番揺さぶりたい人は誰ですか?

 ──それを見失ったら、数字はすぐ消えます」


沈黙。

夏の視界に、子役時代の光景が滲む。

母と父が並んでテレビを見て笑っていたあの時間。

──結局、自分が揺さぶりたかったのは“あの二人”だった。


化粧の下で、夏の笑顔が崩れていった。


そのひび割れから、ずっと隠してきた“本音”が漏れ出そうとしていた。

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