第19話 見た目が悪いくせに

深夜、控え室。

煌びやかなドレスを脱ぎ捨て、夏は鏡台の前で手を震わせていた。


「……おかしい」

スマホの売上報告画面をスクロールしながら、小さく呟く。

「客数は私の方が圧倒的に多いのに……なんで売上が並ぶの」


背後から黒服たちの笑い声が微かに聞こえる。

〈月子の客、太いらしいぞ〉

〈一人で百入れるとか普通ないだろ〉


夏は耳を塞ぎたかった。

──数字が落ちる。

──支持が削られる。

──あの頃と同じだ。


「……主演には数字が足りないね」

「夏ちゃんの時代はもう終わった」

「小役時代と比べて華がなくなった」


プロデューサーの冷たい声が、脳裏でこだました。

その瞬間、胸の奥が鋭く痛む。


ドアが開く。

ルナが入ってきた。

バッグからノートを取り出し、無言でページを開く。


夏は振り返らず、笑みを貼りつけた声で言った。

「……どうせまた、数字の研究?」

「ええ。数字は裏切らないですから」


その言葉に、夏の視線が一気に濁った。

笑顔の仮面が崩れ、素顔が覗く。


「──月子なんて、見た目が悪いくせに」


ルナのペン先が止まる。

静寂。

夏は唇を噛み、言葉を吐き出すように続けた。


「……見た目が悪いくせに、なんで客がつくの!!!!

必死? 努力? そんなの数字にならないことくらい、あんたもわかってるでしょ!」


声が震えていた。怒りよりも、怯えに近かった。

「……私は……数字を落としたら存在価値がないの」


ルナは何も返さなかった。

ただノートを閉じ、ゆっくり夏を見つめた。

その瞳の冷静さが、夏をさらに追い詰める。


「……皆、笑ってよ」

夏はかすれた声で呟いた。

「皆、昔みたいに、笑って、私を応援してよ……」


それは誰に向けた願いなのか。

客か、プロデューサーか、あるいは自分の幼い日の記憶か。


夏の肩が小さく震え続けていた。

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