第18話 トップキャバ嬢の席
──翌日、バックヤード。
「おいおい……昨夜の月子、たった一人で100万円か」
黒服の佐川が煙草をくわえながら口笛を吹いた。
「数じゃ夏ちゃんに勝てねぇと思ってたが……“深掘り”ってやつか」
「夏は花火だ」
店長の声が静かに響く。
「打ち上がれば派手で客も集まる。だが一瞬で消える」
「じゃあ月子は?」
「薪だよ。地味に見えるが、燃え始めたら長く熱を出す」
報告を聞いていたキャストたちがざわつく。
「マジで?新人がVIPでそんな額……」
「でもやっぱり夏ちゃんの数には勝てないっしょ」
──フロアでは、夏が再び派手な配信を始めていた。
ライトに照らされ、ドレスを翻しながら、数十人のファンを一斉に沸かせる。
〈夏ちゃん最強!〉
〈次も絶対通う!〉
コメント欄は炎のように流れていく。
ルナはその光を横目に見ながら、ノートを開いていた。
昨夜のデータを書き込み、赤いペンで線を引く。
──単価 × リピート率 × 継続期間。
数字は冷酷だ。けれど、冷酷だからこそ信じられる。
「……私は、積み上げる」
小さく呟き、ペンを走らせた。
その横で、夏が一瞬だけ視線を止める。
配信の笑顔を崩さないまま、心の奥ではざわめきが広がっていた。
(……数で圧倒してるのに。
なぜ、あの子の“静かな一撃”が私の胸をざわつかせるの?)
──深夜、閉店後のフロア。
テーブルの上に並んだ売上表を、店長が無言でめくっていた。
「……夏、85本。売上195万」
ざわめきが走る。
「やっぱりな。あの客数は伊達じゃねぇ」
続いて、もう一枚。
「月子……7本。売上180万」
夏の元ファンだった男が、静かに延長をつけて10万を積み上げていた。
――派手な配信に背を向けて。
「……は? 7本で?」
一瞬、空気が止まった。
「ドンペリ一本で100だってよ」
「マジかよ。やべぇ新人が出てきたな」
黒服たちの視線が一斉にルナへ突き刺さる。
夏は笑顔を浮かべたまま、ゆっくり脚を組んだ。
「ふふ……でも、私の方が上」
その言葉に、場の緊張が少しだけ緩む。
だが、店長は煙草に火をつけ、低く言った。
「数と深さ。二つの戦い方が並び立ったな」
黒服・佐川が笑う。
「夏は花火。派手で一瞬で人を集める。
月子は薪。じわじわ燃えて長持ちする」
「数字は夏の勝ちだ。だが少なくとも──」
店長の視線がルナに向いた。
「今日からお前は“同格”だ」
ざわめきが走る。
夏の笑顔が、ほんの一瞬だけ引き攣った。
「……月子に席を用意しろ」
店長の声が響く。
その瞬間、夏の胸に冷たい棘が突き刺さった。
(……舞台の中心に立つのは、私だけのはずなのに)
【現在ステータス】
資金:192万円
残り:808万円/327日
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