第21話 等価

七月七日、放課後。俺らは部室に集まっていた。俺らと言うがサッカー部の試合が近いミカコは、そっちのマネージャーの仕事のために席を空けている。窓を開けると風が吹く。いつもより俺らの背中を押してくれている気がする。

「それで、まずどうする?今本、本当にノープランなのか?」

先生が冷静に尋ねる。

「そうですね……まずは、なぜナナカを殺すことが先生の奥さんの回復に繋がるか考えたいです。」

「なるほどな。確かにそれは俺も気になっていた。七瀬の話によると、俺は二百回以上ループを繰り返してたんだろ?それなのに、七瀬を殺す以外で言い方法がなかった…」

不思議な話だ。ナナカは当然、先生の奥さんに会ったことはない。繋がりなどないのだ。風が吹けば桶屋が儲かるのように、何がどうなってナナカの死が奥さんの生に繋がるのか意味不明なのだ。

「理論的に考えるのは難しいかもな。七瀬の死が本当に小さい…いわば分子レベルの変化を起こし、それによって俺の妻が回復したのかもしれんしな。そんな小さな世界での話はしようがない。」

「そうですね……なんで私なんだろう?私だけ他の人と違うことなんてあったかな?先生は他の人でも試したけど、ダメだったって言ってました。」

ナナカだけのこと。他の誰でもないナナカだからこその理由。………!あるじゃないか!他人とナナカの違い!

「タイムリープだ!タイムリープしてるじゃんか、ナナカは!」

「! たっ確かに!」

「けど、それだと俺もしていたはずだ。確か七瀬の話だと俺は自殺も試してるんだろう?しかし、効果はなかった。」

「それはそうですけど……」

どうして先生の死では奥さんは救われず、ナナカの死だと救われたのか…

「……そういや、ループの条件って先生とその奥さんが死ぬことでしたよね?ナナカの場合、ナナカと俺が死ぬこと。」

二人は頷いた。

「ってことは、女神像が能力を授けてくれたのは、先生と奥さん、ナナカと俺とか、両思いの愛に反応したからじゃないんですか?仮に先生だけが、奥さんを愛していても反応しなかった。奥さんも先生を愛していたからこそループの力を授かった。」

「ほう。だから、力の授けたきっかけになった二人が死ぬことで、次のループが起こると。」

「女神像は愛の像です。力を授けておいて、片方の死……つまり片方の愛が消えることがループを終わらせるーー先生の奥さんが救われることに繋がるのはおかしくないですか?」

「……だから、俺の死では妻は回復しなかった?」

「一方ナナカも、力を授かれるぐらい強い愛を持ってました。それが、大切だったのかもしれません。」

「…等価交換的なことか!愛する人を生かすためには、他の強い愛を持つ人物の死がいる。」

「そんな!だから、私が死ぬことで先生の奥さんは救われたの!?けどけど、だったらなんで私にもループの力が!?」

「そうだよな……」

女神像はどうしてナナカにも力を与えたんだ。与えなければ、先生たちの愛は幸せなものとして結末を向かえたのに。それとも、無条件に強い愛に反応して、力を渡してしまうのか?だから、ナナカに渡した。…しっくり来ないな。他の可能性……

「もしかしたらなにかに気づいてほしいのかも?」

「なにか?」

「はっきりとはまだ分からない。けど、誰も殺さずにみんな救われる方法があるのかもしれない。だから、ナナカにも力を渡した。」

「確かに…愛の女神像が誰かの愛を壊して、誰かの愛を助けるなんてなんか女神って言うより、悪魔だもんね。」

「だが、話をまとめると、俺の妻を救うには等価交換…つまり、強い愛を持つものを殺さねばならんのだろう?矛盾してないか?」

「うーーん。」

そう、矛盾している。ともなれば俺の考えが間違っているのか?その可能性も大いにある。なんせこんな非現実的なこと滅多に考えないからな。

その後も話し合いは続いた。もしかしたら他にもループしてる人がいるかもとか。やっぱり、一つずつ行動を変えて、しらみ潰しに奥さんを救う方法を考えるとか……気づくと日が暮れてもうすぐ学校を帰る時間になっていた。最終的な結論として、女神像について詳しく調べ直そうと言うことになった。


「んーー、頭むちゃくちゃだよー!」

先生は戸締りなどすることがあるらしく職員室へと戻っていった。俺らは先生に言われ、先に帰ることとなった。

「あっー!二人!なんか進んだ?」

「ミカコ!」

裏門のところでミカコが駆けつけてきた。あまり疲れを感じない。やはり体力はピカイチだな。

「あんまりかな…いい方法が思い付かないの。」

「そうなの……あ!私写真取ってきたんだ!ほれ!女神像の写真。なにかに役立つかなって!」

ミカコはスマホの画像を見せびらかす。

「写真…」

そういえば前の世界では、ナナカが写真を撮ってきたんだっけ?つっても俺には記憶がないから久々に像を見た気分だ。

「ん?」

「どうしたんだ?ナオト?」

「いや、結構ぼろいなあって。」

「そうだね。苔とかひびとかあるね。」

三人でスマホを覗きながら会話する。

「……どうしてだ?」

「どうしたってなにが?結構年代物だから、ぼろくなるのは当たり前だと思うけど…」

ミカコは不思議そうに尋ねる。

「管理人がいるんだぜ?」

「!」

「どうして苔の処理とかをしてないんだ?しかも管理人の祖父の作品だろ?絶対大事にするだろ?」

「たっ確かに…!」

「……これは、話を聞かなきゃな。」

「えー-、あの人と話すと疲れるんだよー!」

「だが、これは大きなヒントになる!」

「…そういうなら、 分かった!がんばろう!」

心臓の音が高鳴る。可能性を感じる。ぼろぼろの女神像……それがこの状況を解決する気がしてならなかったのだ。

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