未来への一週間
第20話 協力
「ナオト…」
昼休みが始まり、弁当を取るとナナカの声がした。そっちを振り向くと、
「えっ」
ナナカが泣いていた。涙を流していたのだ。
「どうした…ナナカ?昼寝して悪い夢でも…」
「バカ!」
「えっ」
「バカ!バカ!バカ!バカナオト!」
なっなんだ!?どうしたんだ急に!?ナナカを両手を俺にぽかぽか当てながら、バカを連呼する。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「バカ!アホ!アホ!アホバカ!アルパカ!」
「ちょっ、落ち着けって!アルパカが悪口みたいになってるぞ!」
周りのみんなも気になってこちらを見ている。恥ずかしい…
「なーに?夫婦喧嘩ですかあ?」
「すっ鈴木…」
「鈴木 美香子」がこっちに近づいてきていつものように、いじってくる。
「全く、お熱いですなあ!こんなに泣かすなんて浮気でもしたのお?」
「しっ知らねーって!」
「また、またあ!」
鈴木はにやけッ面で言う。
「ミカコ!!」
そのときナナカが大きな声をあげた。
「ミカコもだよ!」
「へっ?」
「ミカコも、バカ!なんで止めなかったの!」
「えっ、ちょっと何を?」
動揺している。俺もだ。
「ぐすっ、とりあえず、二人とも来て!部室に!四谷先生も呼ぶよ!」
そう言うとナナカは俺らの手を引いて、職員室に走った。一体なんだって言うんだ。弁当を横目に教室を去った。
「で、どうして俺はここに呼ばれたんだ?美味しく昼飯を食べていたところなんだが…」
四谷先生はナナカのことを見つつ、困惑している。
「落ち着いたか?ナナカ?話してくれ。何があった…?」
「…ふう、話すよ……全部。」
ナナカの涙はもう止まっていた。落ち着いたのだろう。ただその口から発せられる言葉はどれも不思議なことばかりだった。
「ナナカがタイムリープしてる!?それで何回も死んでる!?」
「おっ俺もループしてるのか!?それで、七瀬を殺してる!?」
「私と心を打ち明けあったの!?それで、友達に…」
どれもこれも信じれるような話じゃない。タイムリープや何度も死んでること、俺に告白しようとしていたことや、俺が告白しようと約束したこと、先生がナナカを殺した犯人だったこと、それを俺が突き止め次に託したことなど…。非現実的、けれど、ナナカの話し方は現実味を帯びていて、気持ちがこもっていた。実際聞いていて、涙がこぼれるときもあった。それはミカコも同じで、先生も感じるところがあるようだった。
「……しっ、信じられん。俺が生徒を…」
「ユイ、大山公園の桜の木の下。」
「! なぜ、それを!」
「先生が前の世界で言ってました。これを言えば信じると。奥さんの名前と、出会った場所。」
「……」
先生はそれを聞いて、黙り込んだ。
「……私は信じるよ。」
「ミカコ!」
「なんかごちゃごちゃしてさ…ややこしいけど。……私たち打ち解け合ったらしいじゃん。それだけで私すごく嬉しいの。」
「ミカコ…」
「けど、そのつぎの日にナナカが突然死んだこと許さないからね!」
「うっ、ごめん……」
「……お詫びに遊園地行こう!三人で…もちろん!十五日以降に!」
「…うん!絶対だよ!」
二人は笑顔でそう話した。なんだろう昔に戻った感じだ。ミカコは相変わらず飲み込みがはやい。
「ナオトは?あんたは信じるの?ってか、信じろ!あんたも私をおいて死んだんだから!」
「そーだよ!私はナオトに生きてほしくて手紙書いたのに!もう一回その話するの結構恥ずいし!」
「……悪かったな。…正直まだ整理できてない。けど、信じるよ。ナナカは嘘が下手だからな。」
「なにそれ-!」
ナナカは怒ったように頬を膨らます。こんなときにあれだが、かわいい。
「それで、四谷先生はどうなんです?俺は…ナナカの話を信じる以上、あなたを許すことはできない…けど、協力したいとは思ってます。」
俺は先生の方を向いて尋ねた。
「………ひとつ聞きたい、七瀬。」
先生の雰囲気が変わる。
「なんですか?」
「なぜ、俺に話した。それが真実なら俺は今すぐお前を殺すかもしれないぞ。妻を救うために…」
「……それは、」
「なんだ?」
ナナカは真剣な眼差しを先生に向ける。
「考えてませんでした!」
「はあ?」
「確かに、先生からしたら私を今殺したらいいですね!考えてませんでした!抜けてました!とりあえず、話さなきゃって思って……お願いします!今は殺さないでください!」
「……ははっ、ナナカらしー!」
「そうだな。ザ、ナナカだ!」
「ちょっ、二人ともなに笑ってんの!私殺されるかもだよ!」
「はは、大丈夫だよ。先生は殺さないさ。俺が保証する。」
俺のその言葉に先生は驚いたようだった。
「なぜ、そう言える?」
「それが、四谷先生だからです。」
「! 参ったな…」
四谷先生はやれやれと言った表情をする。けど、前の世界で俺に任せたと言った先生がそんなことをするように思えないのだ。
「信じよう。七瀬の話も、今本の覚悟も。…それで、今本はなにか思い付いているのか?」
「何をです?」
「あんだけ、みんなを救うって言ってたんだ。なにか策があったんだろ?」
「そーだ、ナオト!一体何を思い付いたんだよ?」
「……」
頭を少しずつ整理させる。まだ混乱している部分もあるが、何となく前の世界で俺が考えていたことは分かる。俺だからかな。俺自身の考えはよく分かる。きっと、俺があのとき考えていたのは…
「……なんも考えてないよ。」
「は?」
三人がこちらを見て驚きの声をあげる。
「あの時は、とりあえず説得して次の世界で頑張ろうと思ってたからな。どうしようかなんて一切…」
「なっなにいってんの?」
「今本…ふざけてるのか?」
「ふざけませんよ、こんなときに。……俺は分かったんです。先生もナナカも全然上手くいかなかった理由。いや、二人だけじゃない。俺もナナカの話を聞いていながらナナカの死を防げてなかった。どうしてか?簡単な話です。一人じゃ無理だったんです。」
「!」
「みんなどこか、一人で頑張ろうとしてました。だからダメだったんです。」
「今本…」
「けど、今は違います。四人います!俺と、ナナカと、ミカコと、四谷先生。きっと四人いればなんとかできます。俺はミカコのことが大好きだ。友達、親友として愛してる。俺は四谷先生のことが好きです。話も面白く、優しい、先生として愛してます。そして、ナナカも…」
いや、この続きは全部解決してから言う約束だったな。
「ともかく、愛の女神像から始まったこの話は、愛が鍵を握ってると思います。だから、みんなが必要なんです。それが何より大事なことだと思います!」
「………」
場が静まる。愛を連呼したせいか、顔が熱くなる。
「……はは、なに照れてんの?わたしはあんたに協力するよ!ダチじゃん!」
そう言ってミカコは拳を前につき出す。
「その通りかもな。前の世界までの俺は、頼らなすぎたのかもな。よろしくな!」
四谷先生も拳をつき出す。
「ナオト!がんばろっ!……私も一人で抱えすぎちゃってた。」
ナナカも拳をつき出す。俺は三人のだした拳に合わせて、手を握りしめ前に伸ばす。
「みんな…進もう!未来へ!」
気づけば後数分で昼休みが終わる。先生は次の授業の準備のため職員室へ戻った。ついでに部室の鍵も戻してもらった。俺らも教室へと帰る。
「はあー、あんま昼飯食えてないなあ。遅弁しようかしら。」
「あんま聞かねぇーよ、遅弁。」
「ふふ、にしてもまたしてもナオトにやられたね!」
「ああ?」
「私と先生を救うって言う自信は、ようは嘘だったんでしょ?あったのは強い気持ちだけ…まさに、嘘は半分だね!」
「!……そうだな!俺らしいだろ?」
ここからだ。ここがきっと本当のスタートだ!
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