第12話 夢?

「同じ日をもう一度体験してる?」

ナオトは驚いた顔で聞き返した。

「…うん。なんか全部知ってるの。弁当の中身も、橋本くんが転ぶのも、授業の内容も。二回目な気がするの。」

「はあ、」

ナオトは不思議そうな、ただ私が実際今日中何かで悩んでたいたことを知っているから、嘘だとも思えない表情を浮かべていた。

「うーん、つってもなあ、」

ナオトは頭をぽりぽりと掻く。

「私も意味分かんないよ!けど……」

「まあ、不思議なこともあるもんだな。そんな気にすることはないぜ。それとも何か、不安なことでもあんのか?」

「不安……」

とたん頭にあの謎の人物が浮かんだ。私は右手で腹部をさする。私は殺される…

「…いや!何もないよ!考えすぎだよね!私らしくないや。」

「そうだな!ポジティブにいこうぜ!」

殺される…何て言えない。ナオトに心配かけたくないし。何より自分が死ぬことをいまいち認められない。殺されて、幽霊になって、もう一度七日に戻る…そんなむちゃくちゃな話、夢に決まってる。私は気を紛らわすようにナオトと明るい話をして、そして家に帰った。大丈夫だよ。きっと起きたらスッキリしてる。私はいつものように夕飯を食べてお風呂に入り、眠りについた。そういえば、今日の夕飯も食べた気がする…


それから一週間がたち、十四日になった。この一週間は細かい違いはあれども、知っている日々だった。授業の内容、おかずの種類、ニュースに友達との話題…一度見聞きしたものが多かった。けど、いいことも分かった。例えば、私が寿司を食べに行きたいって言ったら、お父さんが連れていってくれた。これは前の…夢の中の一週間にはなかったことだ。つまり、私が行動を変えれば結果も変わる。仮にあの夢が正しくて、私が今日死んだからと言ってそれが現実になるとは限らない。なるべくあの夢と違う感じに振る舞ってきたしね。そうだ!夢のときは緊張して、朝早くに登校したから今日は反対に遅刻ギリギリに学校に行こう!そして、あの日は女神像に祈るため遅くまで学校にいたけど、今日はすぐ帰ろう。明るくて、人がたくさんいる内に。あの夢を完全に信じる訳じゃないけど、念のためね!大丈夫。現実では死なない。

「ふぅ、」

一呼吸する。胸がざわめく。これはあの夢のことがあったためだけじゃない。

「告白…どうしようかな。」

ナオトへの告白。夢では明日する予定だった。けど、万が一殺されるかもしれない以上、しばらくは気を付けた方がいいだろうし……生きていれば何回でもチャンスはあるんだ!そうだな…まあ、来月までなにもなかったら告白しよう。チャンスがあるとは言え、他の子に取られるかもしれないし。夢の世界では、ナオトのことを気になってる子がいるって噂を友達から聞いたから、急ご!ってなったわけだし。…おっといい時間だ。学校に行かないと…って、今日は遅く出るんだった。


学校に着いても特にこれと言って変わったことはなかった。ナオトに、「遅刻ギリギリだぞ」って、笑われたぐらい。いつも通りの日常。やはり気のせいだ!一切死ぬ気配なんてない。それでも少し、ほんの少しだけ怖い。私は一抹の不安をかき消すように、いつも以上に授業に集中した。そして、いつも以上に友達に話しかけ、たくさん笑った。気づけば昼休みで、友達とごはんを食べていた。今日も弁当は美味しい。夢の世界では告白のことで、弁当を味わう余裕もなかったから新鮮な気持ちだ。

ガラッ!

その時、強く教室の扉が開けられた。なんだろうと思い、そっちを見ると…

「えっ…」

カランっと箸が落ちる音がした。手が震える。教室に入ってきたのは、あの誰かだった。そう、私を殺した誰か。あのときと違い教室の明かりに照らされるそいつが、黒いコートを着ていて、顔を黒いサングラスとマスクで隠していて、黒い帽子を被っているのが見えた。髪は短めで、がたいはいい気がする。コートを着ているため正確ではないけど…

「逃げなきゃ!」

私は叫んだ。周りの子もいかにも不審者なそいつを見て、驚いている。そして私の叫びを聞いて教室から逃げ出す。私もみんなに続き急いで教室を…出ようとした。

「いっっ!!」

そいつは机にぶつかるのもお構いなしに、一直線に私に向かって走ってきた。そして私にその勢いのままぶつかってきた。私はロッカーに思いっきりぶつかる。

「大丈夫!?」

クラスメイトの声が聞こえる。

「危ない!!ナナカちゃん!!」

友達の声が聞こえると同時に首に激痛が走る。

「!!」

声が…でない!苦しい…!痛い!熱さが首から広がっていく。犯人は私が致命傷を負ったことを確信したのか、教室から出ていくのが見えた。そしてそれが最後の景色だった。痛みに耐えかねて目を閉じたからだ。クラスメイトが叫んでいるのが、ぼんやりと聞こえる。

「かはっ、かはっ!」

口からなにか出ている。恐らく血だ。首が絞められているかのように息ができない。………そういえば昔、プールで溺れて息が上手くできないことがあったかな?あの時は…ナオトが、助けて…くれたっけな?今ナオトはどこに?そうだ、今日は食堂で友達とごはん食べてるんだっけ?ナオト…ナオト……たす、け、、て


意識と共に痛みが消える。まるで電源が切られ、また入れられたかのように。感覚がガラリと変わる。まただ、また浮いている。首に痛みは感じないが、脳があの経験を覚えている。私は首を触ろうとするがすーっと通り抜ける。幽霊になったんだ。ぼんやりとした意識のなか時間が流れる。首から血を流し、倒れている私が見える。教室の床が赤く染まり、駆けつけた生徒の上履きも同じく染まっていた。そのうち、先生や別のクラスも駆けつけ…そしてナオトも。…ナオト?私の頭に嫌な予感がよぎる。そういえばあの夢の世界で、ナオトは……!待ってナオト!早まらないで!お願いだから!手を伸ばしても触れられない。涙はどこまでも落ちていく。当然私のナオトへの悲痛な願いも届くはずはなく、時間は流れて、ナオトは再び自ら……



「ナナカ?どうした、ぼーっとして?」

ナオトの声がする。

「…」

幽霊のときはぼんやりとしていた意識が、はっきりとした。そして私は明確に理解した。夢の世界なんてない。すべて現実だ。時間が巻き戻っている。この世界は三度めで、私は七日後に死ぬ。

「ナオト…」

もう死にたくない。死んでほしくない。私の心でスイッチが押された。ーー私は生きるーーそう強く覚悟した。

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