第13話 家

意識がはっきりしたせいで、首を刺された記憶が甦る。痛くないはずなのに、首に違和感を感じる。もしこの先何度も殺されるのを繰り返したら、私の心が持たないかもしれない。だから、なるべく早く行動しなきゃいけない。

「ねえ、ナオト。放課後部室に行こ!話したいことがあるの。」

「ん?いいけど…」

ナオトは例のハンバーグとタコさんウインナーの入った弁当を食べながら答えた。この後の展開は今までと同じ。私は唐揚げ弁当を食べ、橋本くんが盛大に転ぶ。そして、数学では抜き打ちテストが行われる。私は未来を知っている。だからそれらのことはたんたんと再体験し、頭では考え続けた。私を殺した犯人は誰なの?体を覆っていて見た目の情報はほとんどない。使えるのは短髪ってことぐらい?身長とかも見とくべきだったかな。それと第一、どうして私はタイムリープしているの?あの日…一回目の七月十四日に私は何かしたっけ?……女神像?私は女神像にお祈りした。ナオトと上手く付き合えますようにって。そういえば、刺されて倒れたとき、うっすらと女神像の足元になにか書いているのが見えた…題名かな?なんだっけ…一文字だった気がする。……受?いや!愛だ!確かそう書いてあった。普段気にしてなかったけど、あの像の題名は「愛」だ。だとしたら、私がナオトを思う気持ち…ナオトへの愛がこの現象を起こしてるってこと?そんな非現実的な…いや、でも、実際に起こってるし。怪しいのは他にないし。あの女神像について調べてみるのが最適かな?


「で、話ってなんだ?」

放課後いつもの部室で、ナオトはカーテンを開けながら聞いた。日差しが差し込み、窓を開けると涼しい風が流れる。

「今から言うこと…信じられないと思うけど、真剣に聞いてほしいの。」

私は話した。タイムリープしていること。この日が三回目のこと。二回殺されていること。犯人は短髪で、体を覆って隠していること。そして、女神像を調べたいと言うこと。

「………」

ナオトは話を聞き終わった後、下を向き、頬杖をつきながらしばらくなにかを考えていた。

「……ナナカ。嘘は半分までだ。」

「!」

ナオトがこの口癖を言うのは嘘を見破ったときだ。つまり私の話を…信じてない!

「ナオト!本当なの!嘘はないよ!」

「……ああ。お前は嘘が下手だからな。何回言ってもお前の嘘は0か100…つまり全部嘘か全部本当かだ。……俺は知ってるよ。」

「……なにを?」

「ナナカが、殺されるとかそういうひどい嘘をつかないこと。……信じるよ。信じれないことだけど、信じるよ。」

ナオトの目はまっすぐだった。

「ナオト…ありがとう。」

「…ああ、聞きたいことがいくつかある。一つ目は殺されるのは七日後なんだよな?」

「うん。そう…多分。」

「多分じゃダメだ!」

ナオトは声を大きくした。

「今までの二回はどっちも七日後だったよ…」

「けど、時間が違うだろ?一日目は夕方、六時頃。二日目は昼休み…ようは十二時半ぐらいか。このペースでいくと、もしかしたら日を跨ぐかもしれない…今回は六日後に死ぬかもしれないんだぞ!」

「!」

反論がでない。確かにその通りだ。殺された場所も時刻も違う以上、七日目より早く殺される可能性はある。唾を飲み込む。背筋に汗がつたる。

「とりあえず、一旦家に帰ろう。周りに気を付けながらな。そして、一週間経つまで家を出るな。」

「! 学校はどうするの!?」

「そんなの、仮病でもなんでも使って休むしかないだろ。親にも体調悪いとか言うんだ。ナナカの両親は優しいから休ませてくれるだろ。」

「でも…」

「でもじゃない!……分かってくれ。」

ナオトの目を見て私はそれ以上言葉がでなかった。ナオトは私を思って言ってくれてるんだ。けど、もしもナオトにもなにかがあったら…

「とりあえず家まで一緒に帰って、その後俺はもう一度学校に来る。そして図書館で女神像について調べてみる。」

「うん。私もネットとかで調べてみる。」

「ああ、あとは犯人探しだな。とにかく聞き込みとかもしとくから、なにか分かったら連絡するよ。ナナカも何か重要そうなことを思い出したり、気がかりがあったらメールしてくれ。」

「うん。」

私は頷くことしかできなかった。ナオトが私のために頑張るのに、自分はなにもすることができない。その無力感がただ悔しくて、悲しかった。そしてこの一週間私はそんな気持ちを抱えながら、ずっと家で過ごすことになった。


七月十四日…スマホを見るとその日だった。時刻は夕方で、すでに昼間は過ぎている。始めに殺されたときは六時ぐらいだったかな。チャイムがなってたし…後三十分もすればその時間は過ぎる。私はスマホのナオトとのやり取りを見る。これと言って進展はなかった。女神像の話は少し書いてあったけど、他は特にだ。いかんせん情報が少ない。犯人を特定することは不可能に近しいのだ。ああ、私はなにもできないんだ。とてつもない寂しさが押し寄せる。ナオト……

その時、コンコンっとノックの音が聞こえた。

「お母さん?」

私は体調不良を装い部屋にこもっていた。そのため、お母さんがここまで食事を持ってきてくれていたのだ。お母さんに嘘をついている以上、会うたびに心が締め付けられる。お父さんも心配してくれて、友達からもメールが来る。正直罪悪感は限界だ。今日はいつもよりごはんの時間が早い気もしたが、なにもすることのない私は特に考えず、扉を開けた。そしてこれは失敗だった。

「うっっ!」

みぞおちに激痛が走り、倒れる。殴られた?強い吐き気がする。

「だれっかっっ!」

声を出そうとした瞬間首を強く絞められた。体重を乗っけられて身動きが取れない。両手で相手の手首を掴むが、びくともしない。

「うー…うぅー!」

口から唾液が漏れる。必死に口を開け空気を吸い込もうとするがうまくいかない。言うまでもなく首を絞めているのは、あの黒い誰かだ。どうしてここが!なんで家の中に!意識が消えてく。お父さんや、お母さんは?物音は聞こえなかった…無事なの?

「うぐっ」

生きたいと懇願するように涙を流しても、相手の力は一向に弱まらない。頭がボーッとする。視界がぼやけて、力が抜けていく。まただ…また死ぬ……


浮遊感が私を襲った。下を見ると首をくっきりと手形のついた私と、部屋を出ようとする犯人が見える。嫌だ!もう見たくない…自分の死体も、みんなが泣いている姿も、ナオトが死ぬのも!けどそんな思いが届くわけもなく、みんなの悲しみを見て、そしてナオトの死も見届けるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る