第10話 嘘

ナナカが死んだ。

朝、煩わしいサイレンの音で目が覚めた。たまに家の前を通る…そんな音だと思っていた。けど救急車は隣の家…ナナカの家から動かなかった。どうして?今日は十二日。あと二日じゃないのか?殺されるんじゃなかったのか?彼女は自室で自ら命を絶ったらしい。どうして?嘘だったのか?すべて…だとしても……。頭の中をサイレンと「さよなら」が交互に流れる。思いっきり頬をつねってみる。痛い。思いっきり頭を叩いてみる。「さよなら」が消えない。彼女はどうしてなにも言わずにいなくなったの?どうして俺を…そして昨日、心うちを見せあったミカコを置いていったの?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?俺は彼女を救えなかったの?


「直人くん、ナナカはあなた宛にこんな手紙を残していたわ。」

その日の夕方、ナナカの母親が一通の手紙を届けてくれた。気づけば俺はその手紙を持って自室に戻っていた。夕方までの記憶はない。ただ心が虚ろになっていた。

「それは?」

ミカコが俺に尋ねる。ナナカが亡くなったのを知って駆けつけてくれたのだ。目が腫れ、涙の跡が見える。俺もそうだろう。ミカコにはここ最近のことを話した。…というより自然と口からでたと言う方が正しいかもしれない。閉めていた栓が外れたように、俺の口からナナカの超能力や一週間で死ぬはずだったことなどすべてが漏れ出した。ミカコはただ黙って頷くだけだった。その優しさが暖かかった。

「これは、手紙らしい。ナナカからの。ナオトへとかいてあるけど、きっとミカコも読むべきだと思う。」

俺はまだ内容を一切知らないがそう言った。そんな気がしたのだ。

「そう、分かった…私も読む。」

そう言ってミカコは俺が座っている椅子の隣まで来た。

「手紙…」

手紙ってどう開けるんだっけ?そうだまず、封を外して。手紙にはハートのシールで封がしてあった。まるでラブレターだ。その封をゆっくりと剥がした。そして次は、開いて中から手紙を取り出すんだ。中にはいくつもの手紙がホッチキスでまとめられていた。パッと見るだけでも一枚一枚に文字がぎっしりかかれている。深呼吸して、心を落ち着かせる。いや、落ち着かない。手が震える。上手く文字を読めるだろうか?そもそもどうやって読むんだっけ?どうやって見て、脳で処理するんだ?彼女の字はそんな不安をかき消した。彼女の字からは暖かみを感じた。優しさを感じた。彼女のいつもの言葉のように、心落ち着くなにかを感じ取れた。


「ナオトへ

こんにちは。お元気ですか?七瀬 奈々華です。手紙の書き出しって難しいですね。普段こういうのかかないから、変になっちゃったかもしれません。それに手紙にすると、どこか堅苦しくなって敬語になってしまいます。違和感があるかな?多分書いてるうちにいつもみたいな口調に戻ると思います。」


彼女の字を読んでいると、自然に彼女の声で翻訳される。普段と違う口調…それでもこれは彼女の…ナナカの言葉だ。


「始めに元気ですか?なんて書きましたけど、多分それどころじゃないですよね。まずは、ごめんなさい。一週間って言ったのに勝手に死んでしまって。ですけど、私にはこれしか思い浮かばなかったんです。限界ってやつかな。詳しい理由については追い追い記します。こうやって手紙を書いていると、頭の中が整理されて上手く言葉を繋いでいくことができます。そして、昔の思い出とかもよく思い出せます。ナオトに出会ったのは、物心のつく前だったよね。家が隣同士なのもあって、親同士が仲いいから、ベビーカーの時から知り合ってたんだよね。そう思うと不思議だと感じます。私たちはお互いを知る前から知り合っていたんだなって。どうやらお母さんは、ナオトが始めてあるいた瞬間に立ち会っていたんだって。すごいよね。そんくらい親同士でも関わりがあったからこそ、ナオトとはずっと仲良くいれたんだとも思います。昔のアルバムを見返すと、一ページに一枚は必ずナオトが写っていました。砂遊びを一緒にしてたり、ごはんを食べたり、時には隣で寝て一緒におねしょしてたりも。これは少し恥ずかしかったです。というか結構。少し成長して、幼稚園でもずっと一緒だったね。聞いた話では、年中になったとき、ナオトとクラスが別になったらしいんだけど、私ギャン泣きしたんだって。って、さっきから恥ずかしい話しか出ませんね。だからこそ印象に残ってるのかもしれませんけどね。ナオトもいざ思い返してみると、そういう思い出の方が楽しいものより浮かぶと思います。その後小学校に入ってからはミカコに出会いましたね。そういえば、この手紙はナオトへと書いたけれど、ミカコにも読ませてほしいです。二人は大好きな友達だから。」


俺はミカコの方を見ると、軽く頷いた。ミカコもそれに反応してコクりと首を傾けた。


「ミカコにも謝らなきゃいけないね。今日…この手紙を読むときには昨日かな?あんなに打ち明けて、さらに仲が深まったのにこんなことになってしまってごめんなさい。決してミカコと言い合ったことが原因ではありません。きちんとした理由は必ず後に書かせていただきます。それで、小学校の話だったかな?読み返せばいいんだけど、なんと言うか頭に涌き出た言葉を連ねていきたいから、あえて読み返さずこんな感じで話を書いていこうと思います。だから同じ話をすることもあるかもです。それにこっちの方が直接話しているみたいでいいかな?また脱線しちゃいましたね。小学生の時は二人と結構同じクラスになったね。確か、ナオトは四年生の時以外同じだったかな。ミカコとは二年と四年の時以外かな。四年生の時は二人が同じクラスになっていて、少し…というよりかなり寂しかったのを覚えています。まあ、新しい友達を作るいい気かいにはなったけど、それでも休み時間に二人が尋ねてくるとすごく心が踊ったものです。小学校の時の思い出で一番印象に残っていることと言えば、ドッチボールも捨てがたいけど、やっぱり給食費事件です。六年生の時、私の給食費がどこかに消えちゃったってやつです。周りの子は私が忘れただけだとか、落としただけだと責めるばかりだったけど二人は守ってくれたね。それで、ナオトがクラスの一人がイタズラで隠してたのを発見してくれたんだよね。その子が普段より声を震わしていたことや、やけにノートを気にしていたことから、ノートの間に私の給食費のは言った封筒を隠してるのを当てたんだよね。あの時のナオトはまさに探偵だったなあ。この出来事があったから、私は探偵部を作ろうって言ったんだよ。それだけじゃないけどね。中学の時も、私やミカコのついた嘘をすぐに見破ってたね。お得意の観察眼でね。その度に言ってたね、「嘘は半分まで」って。私結構この言葉が好きでした。なんかことわざみたいでかっこいいからかな。中学で一番印象に残っているのは、ミカコがバスケの大会で大活躍したことかな。負けちゃったけど、ミカコがかっこよく点を決めててすごかったな。高校ではバスケ部に入らないって聞いて驚いたけど、サッカー部に憧れの先輩ができたんだね。なんやかんや前置きが長くなってしまったかな。本当は早く本題に入った方がいいんだろうけど、ついね。じゃあ、本題に入らせていただきます。超能力のこととか色々知りたいだろうしね。といっても私もなんでこの力を手に入れたかよく分かってないんだけどね。ともかく私の知っていること、経験したことをすべて話します。」


俺はここまで読んで少し引っ掛かった。経験したことすべて?


「先ほど、「嘘は半分まで」と言う言葉が好きと私は言いました。上手な嘘をつくコツとしてナオトが教えてくれたことです。なので私、半分だけ嘘をつきました。」


半分……嘘…?


「超能力を得たのは本当です。ただ、未来を読むことなんかできません。私が得た力は、いわゆる「タイムリープ」です。実は私、今回をいれて死ぬのは五回目です。」


「えっ、」

俺もミカコも思わず声を出した。未来を読めない?タイムリープ?既に五回死んでいる?俺らはこの先、彼女の不思議で、恐ろしい体験を知ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る