第4話 バタフライエフェクト
「最近暑くなってきて、蝶々が飛ぶ季節になってきたな。蝶々といえば、みんな、バタフライエフェクトって言葉知ってるか?」
六時間目の授業、普通なら眠気が襲い真面目に聞いてる人も減る時間だが、この物理の時間だけは違う。俺らのクラスの担任でもある物理の『
「日本語では、風が吹けば桶屋が儲かる的な言葉でもあるな。風が吹くと、砂ぼこりが起きて目に入る。それにより目が悪くなった人は、三味線を引く仕事を始め出す。三味線には猫の皮を使うため、猫の数か減り、ネズミが増える。ネズミは木の桶をかじるため、人々は桶を買うようになる。よって桶屋が儲かるってやつだ。」
へー、風が吹けば桶屋が儲かるってそんな由来だったのか。
「バタフライエフェクトもそんなもんだ、ようは、小さい出来事が、やがて別の出来事に繋がってくって訳だ。つまりだ!」
先生は一拍をおいて告げる。
「先生がここで物理の授業を始めたら、バタフライエフェクトで宝くじ当たらないかなあ~」
そんなお茶らけたことを言うと、クラスからは笑いが起きた。
「ははは、願望かよ!先生!」
そんな声を聞こえる。俺も隣の席にいるナナカと顔を会わせて笑いあった。まるでいつものようだ。六日後に事件が起きるとは思えない。いや、起こさせないんだ。そのために俺らは動いている。
授業が終わり、職員室へ行く。昨日と同じく鍵を取って部室へと入る。俺がが席に座り、一息つくとノックの音が聞こえた。
「どうぞ。」
俺が返事をすると、四谷先生が入ってきた。
「四谷先生!どうしたんですか?」
「と、じ、ま、り!」
先生はその四文字だけ言った。
「あーすみません。」
そういえば昨日、俺が図書館、ナナカが女神像を調べに行った時、この部屋の鍵を閉めてなかったな。
「しばらく部屋を空けるときは、鍵を閉めるよう言ったろ?怒られるのは俺なんだよ。」
「すみません、先生。」
四谷先生はこの探偵部の顧問だ。ナナカがこの部活を作ると行った時、当然顧問がいない問題にぶつかった。部員は二人。まともに取り合ってくれる先生はいないと思われたが、気前のいい先生がいると聞いてナナカが四谷先生に頼んだのだ。返事は「OK」。部室まで探してくれた。俺らが四谷先生のことが好きなのは、雑談が面白いのもあるがこの事があったことが大きい。
「まあ、お前らを見てると若い頃の自分を見ているようで楽しいんだがな。」
四谷先生はどこか寂しげな表情をした。
「奥さんと、クイズ部でしたっけ?」
「ああ。お前らと同じでな。といっても四人はいたけどな。少ない人数で盛り上がってたんだ。時おり他の部員が休んであいつと二人きりになることがあって…いやあ!青春してたなあの頃は!」
そういえば顧問になってくれた時もそのようなことを言っていた。先生は奥さんと二人でよく遊んでいたと。そして、お前らを見るとその光景を思い出すって。
「…奥さんの体調はどうなんですか?」
ナナカはそう尋ねた。先生の奥さんは病気で入院しているのだ。
「ああ、元気だよ。お前らほどではないがな!時期によくなるさ。まっ、楽しくやる分にはいいが、戸締まり気を付けろよー!」
それだけ述べると先生はその場を去ろうとした。
「待ってください!」
「どうした?今本。」
「あの…先生って身長どんくらいですか?」
「身長?……190ぐらいか?」
「盛らないでください。」
「はは、すまん。まあ、180いかないぐらいだな。ちなみに体重は秘密だ。」
「聞いてないです。」
「そうか!ははは!にしてもどうした?」
「いえ、なんとなく。」
「そっか、なんとなくか!まあ、部活動頑張れよ!今度トランプで遊ぶときは先生も誘ってな!」
そういうと扉を閉めて、先生は帰っていった。相変わらず明るい人だ。
「…ねえ、ナオト。身長って…」
「ああ。」
「先生を疑ってるの?」
「四谷先生だけじゃないさ。身長が175センチぐらいで、短髪の男なんかたくさんいるからな。まあ、そもそも男性と決まった訳じゃないし、女性も一応疑ってるよ。」
例えば外国人のエレン先生は、スポーツをしていただけあって、女性ながらがたいもいいし、バレー部の佐藤とかも身長は高い。疑い始めたらきりがない。だからといって…
「そう……けどあんまり人間不信になりすぎないでね。」
「お前はもっと疑った方がいいぞ。」
あと六日。それまでにどうにかしなければならない。いや、そもそもどうして六日後…七月十四日なのか?
「なあ、未来ってどこまで正確に見たんだ?」
「ん?結構はっきり見たよ。けど、私視点のものだから、私から離れたところの出来事とかは分かんないや。それに……今日先生がバタフライエフェクトの話してたよね?」
「ああ。」
「あれみたいに私たちが未来と違う行動をしたら、私の知らない未来になるかもしれない。」
「なるほど。じゃあ、あまりにも突拍子の無い行動を取るとせっかくの未来を見る力が意味をなさないって訳か。」
「そーねぇ。としても何かしらしなきゃ死んじゃうんだけど。」
「あー!どうすればいいんだ?本当に何も心当たりはないんだよな?殺される動機とか!」
「あったら言ってるよ!……なんで殺されるのかな?もしかして私…気づいてないだけで…」
パンっと俺は手を叩いた。このままだとよくない考えに進みそうだ。
「一旦脳みそスッキリさせて、考えてみようぜ。まずどうしようか?犯人像はあまり役に立ちそうにないし。」
「ごめん。」
「いや、いい。犯人が慎重すぎるだけだ。ナナカは悪くない……そうだな、犯人は慎重なんだよな。」
夕方で学校から人がかなり減った時刻、それもチャイムの音に合わせての殺害。見た目も特定されないように全身を覆っている。
「……」
ナナカは黙りこくって顔を下に向けている。
「どうした?」
「やっぱり、なんで私か気になって。」
「あんま気にすんなよ。まあ、気にするだろうけどさ。動機自体は偶然かもよ。犯人がなんかムシャクシャしてて誰でもいいから殺したかったとか。」
「それで私……そんなわけは…」
ナナカはなにかを小さく呟いた。
「?……まあ、他のことから考えよう?どうしてより、どうやって防ぐかだ。」
「……そうだね!」
ナナカは元気を少し取り戻したようだ。よかった。でもナナカもやっぱり不安だったんだな。
「それでどうしよっか?」
「そうだな…」
考えろ。どうすればいい?犯人を今の段階で特定するのは難しい。情報が足りないし…情報?……そうだ!
「俺らには未来の情報があるじゃねえか!とにかく覚えてる分全部教えてくれ!ってかお前の見た未来では次はなにしたんだよ?」
「学校中をまわって怪しい人がいないかとか、いろんな情報を集めてた。」
「そっか、じゃあその結果だけ教えてくれ!」
「いいけど、その行程をカットすると、その後の未来が変わるかもよ?さっきも言ったけど…」
「バタフライエフェクトな……むしろいいんじゃね?」
「え?」
「そうだ!バタフライエフェクトだよ!むしろナナカの見た未来と行動をバンバン変えてけば、何か上手いこと殺される未来が変化されるかも知れないぞ!」
「あー確かにねえ…」
ナナカはどこか浮かない顔をして答えた。
「安心しろ。当然そんな曖昧なもんに頼る気はない。あくまで0.1%でもナナカが生きる可能性をあげるためだ。万が一の保険。」
「そう…」
「あとの六日以内にもっと確実な方法は探す!てか見つける!」
「…うん。分かった!ありがとう!私も渡せる情報は全部渡す!聞きたいことは聞いて!そして、行動起こしてこう!」
ナナカはようやくいつもの調子が出てきた。
「えっと、まずは学校中の聞き込みの結果だよね?一個一個正確に思い出しつつ話したいから、帰ってノートにまとめてきていい?今ここで記憶を探りながら話してもぐちゃぐちゃになりそうだから!」
「ああ、分かった。じゃあ、そのノートを明日の朝…いや、早くまとめれたら写真でも撮って送ってくれ!」
「りょーかい!」
ナナカは敬礼のポーズをビシッと取った。俺もそれに返すよう同じポーズを取る。二日目の活動はひとまずこれでお開きとなり、家に帰ることとなった。ナナカが家でノートを作っている間もいろいろ考えなくてはならない。俺は深呼吸をして残り五日に立ち向かう覚悟を決めた。
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