第3話 管理人
私は部室の前でナオトと分かれた後、す
ぐに女神像のもとへ向かったの。そして、写真を撮った。正面から、右から、左から。顔だけを大きく撮ったり、体だけを撮ったり。そうやってじっくり見てみると、案外新しいことに気づいて面白かったね。像は長髪の女性で、両手を胸の前で合わしている。全体的に細身で、裸足。指の隅々まで丁寧に掘っていて、女神って言われるのも納得な女性って感じ。制作者の奥さんがモチーフなんだっけ?ただ、所々苔などが生えている。そういう風に観察しつつ、写真を撮っていると、突然話しかけられたの。
「キミ!像に興味津々だね!」
全体的に派手!な男性だった。髪は赤と金色が混じっている。顔や手、つなぎにはペンキ汚れのようなものがついており、黄色や青など色様々だ。一目で管理人さんだって分かった。
「あ、すみません。」
「なんで謝るんだいっ!悪いことでもしてたのかい?もしかして、像を傷つけたり!!?」
管理人さんは目を思いっきり開いた。あまりにも、強い目力でつい声を出しそうになった。……ってか傷つけたりといっても始めから結構ひびが入っているような。
「いえいえ!ちょっと、気になって!」
「気になる?像が?」
「はっはい…」
管理人さんは口を閉じた。なんか怒らせちゃったかな?…と思ってると、次は口を大きく開いた。
「すばらっしい!まさかこの芸術が気になるだなんて!」
「へ?」
「あなた!見る目があるね。これは私の祖父が作ったものなの。素晴らしいでしょう?」
「えっはい。」
「タイトルは愛!まさに愛!」
それを聞いて像の足下を見ると、確かに「愛」と彫ってある。
「そうですね……奥さんがモチーフなんでしたっけ?」
その言葉を聞くと管理人さんは再び目を大きく開いた。
「よくご存じで!あなたやるね!」
「はあ、ありがとうございます。」
「祖父は、とっても愛妻家だったからね。私も子どものころ、祖父はよく祖母の話をしていたね。」
「そうなんですね。」
「まさに愛!にふさわしい…!」
なにやら管理人さんは像を見て感動しているようだった。手を合わせ、体を震わしている。
「ところで、あなたはどこで祖母の話を?」
「えっと、図書室の本で、」
もちろん私は本を読んでないから、未来の情報だけどね。
「ああ、あの歴史の本ね。」
管理人さんの声のトーンがやや下がった。なにか気がかりなのかな?
「どうしました?」
「いや、あの本は少しずれてるの。」
「ずれてる?」
「あの本では、祖父が愛している祖母を作ったことになってるの。」
「違うんですか?」
「少しね。結果的にはそうだけど、」
「結果的ですか?」
「さっきも言ったけど、私は祖父とよく話してたの。大好きだったからね。芸術家をしているのも、ここの管理人をしているのもその影響。その祖父に聞いたことがあるの。この像について。」
「像について?」
「ええ、祖父につれられて始めてこの学校に来たときにね。
「ねぇ、おじいちゃん!あの像、おばあちゃん写真とそっくり!おじいちゃんが作ったの?」
「ああ、そうだよ。」
「きれいだね!さすが、おじいちゃんが大好きなだけがあるね!」
「ああ、ただあれはおばあちゃんを作ろうとしてできたものではないんだよ。」
「どーゆーこと?」
「ここを見てみなさい。何て書いてあるか分かる?」
「んーー、分かんない!」
「はは、漢字はまだ難しいか。「愛」って読むんだ。」
「あい?」
「ああ、おじいちゃんはね。愛を作ろうとしたんだ。どんな人生においてももっとも大切なものだからね。だから、いろんな人生を育てる学校には愛を作るのが一番だと思ったんだ。」
「ふーん。」
「それで、愛を作った。したら、それがおばあちゃんになったんだ。」
「どういうこと?」
「愛は小説より奇なりだ。私にとっての愛は彼女そのものだったんだよ。」
「んー難しいよ!」
「はは、いつか分かるさ。」
幼い私には難しい話だった。けどね、すごくこの話が好きで、とっても鮮明に残っているの。楽しそうに話していたしね。祖父のこの話、今になって少し理解できたの。祖父は叔母を作るんじゃなく、愛を表現しようとした。それがたまたま叔母の形になったの。いえ、必然かしらね。叔母はそれだけの存在だったの。」
「愛が奥さんに…」
私にとっても難しい話。けどなにか大切な話に感じる。
「愛をもとに作った…だから今もいろんな生徒に愛される作品になったんですかね。」
私は小さく呟いた。
「そうね…話分かるじゃない!あなたも愛する人がいるのかしらね!」
「へっ、」
「まあ、青春!ともかく話足りない!管理人室においで!」
「あっちょっと…!」
そのまま私は、管理人さんの部屋につれてかれて長々と芸術についてとか、好きな作品とか、食堂の美味しいメニューとかなんかいろいろ関係ない話をされた。
「そんな感じかな!長々話してたから、部室に戻ってきたのはナオトと大差ないよ!」
「そうか…大変だったな。」
「まあね。」
彼女は鼻唄混じりに返事した。どこか楽しそうだ。管理人さんの話は確かに少し興味がある。あの作品は、愛をもとにしたものだった。奥さんではなく。
「愛は小説より奇なり…か。」
ナナカは女神像に祈って、超能力を手に入れたといった。像の作者は、愛は小説以上の不思議な出来事を起こすといった旨の言葉を残した。そして、像は愛をもとに作られた。女神像はナナカの強い愛に答えて、力を授けたのか?愛…誰への?胸が、ぞわぞわする。
「なあ、」
「なあに?」
ナナカは笑顔で返事する。まるで、七日後に死ぬとは思えない。いや本当に死ぬのか?嘘であるなら…
「嘘じゃないからね!私は死ぬよ。殺される。このままだと。」
顔に出ていたのか、心を読んだかのように彼女は言った。
「それで、何を聞こうとしてたの?」
彼女は笑って問いかける。
「えっ、いやなんでもない。」
「なんだよー、気になるじゃん。」
彼女は口をすぼめて文句を言う。聞きたい。聞きたくない。彼女の愛が、何なのか知りたくて、知りたくない。友愛?家族愛?それとも……
「ナオト!」
「……!なに?」
「暗い顔してるよ!それもそっか!いろいろあって、疲れてるよね!コンビニでアイス買って帰ろっか!」
「ああ、そうだな!後に着いた方のおごりな!」
俺はそういって走り出す。
「あっ、ずるい!まって!」
彼女が追いかけてくる音がする。今日が終わればあと六日。愛については置いておこう。まずは彼女を救うことだ!
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