第15話 - 雨とぬくもりと距離と


雨はすでに止んでいたが、庭や道路にはまだ水たまりが残っていた。俺は玄関のドアを開け、シャワーを終えた二人を送ろうとした。天城と来理はまだ髪や服が少し濡れていて、雨に濡れた匂いや、シャワー後のほのかな温かさが漂っている。


「佐伯、ありがとう」

天城はすぐに笑顔を作り、濡れた髪を手でかき上げながら俺の方を見た。その視線に、心臓が少し跳ねる。彼女の肩が俺の腕にほんの少し触れただけで、思わず息が詰まりそうになった。


「佐伯先輩、タオル……」

来理も小声で言い、差し出されたタオルを受け取る。その手が俺の手に触れる瞬間、思わずぎゅっと握り返してしまいそうになるのを、必死にこらえる。濡れた手が触れる感触は、思った以上に温かくて、心の奥が少しざわついた。


二人とも恥ずかしそうに目をそらし、肩を少し丸める。濡れた制服や髪が体に張り付いて、自然と体温が伝わってくる。俺はタオルを広げると、二人の髪や肩にそっとかける。指先が微かに触れるたび、微妙な距離感に胸がざわつく。


「……ふぅ、やっと落ち着いたか」

天城が深呼吸をする。肩が俺の腕に軽く触れた瞬間、思わず心臓が跳ねた。体温の残るその感触は、ただの雨宿りとは思えないほど、俺の神経を刺激する。


来理も少し笑いながら、肩をすくめてタオルを押さえる。俺はその横に立ち、自然な形で背後から手を添えるようにタオルを広げる。肩が軽く触れ合うたび、二人とも小さく息をつく。その反応に、俺も思わず少し照れてしまう。


「佐伯、そろそろ家に……」

天城の声は穏やかだが、微妙に笑いを含んでいる。来理も小さく頷き、目を合わせると赤くなった頬が見える。濡れた髪が肩に落ち、互いの体温がほんの少し重なるだけで、距離感が近く感じる。


俺はタオルで髪を拭く手を少し止め、二人の顔を見つめた。目を合わせた瞬間、二人とも慌てて視線を逸らす。胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚。雨上がりの湿気が残る部屋の中で、空気が少し熱を帯びている。


「……さて、家に帰ろうか」

自然に言葉をかけると、天城は軽く肩を寄せて笑う。来理も少し後ろから肩を近づけ、タオルで髪を押さえながら俺に近づく。その距離は微妙で、でも確実に親密さを感じさせる。


「佐伯先輩、ほんとにありがとうございました……」

来理の声が小さく響く。思わず微笑みながら、二人の肩や背中にかかるタオルを整える。手が触れるたび、恥ずかしさと同時に温かさを感じる。肩と肩が触れる距離、手先が少し重なる距離、それだけで心臓が早まる。


「……もう大丈夫か?」

天城が髪を払いながら、少しだけ俺に寄る。その瞬間、肩が触れ合う。体温が伝わる。恥ずかしさで二人とも目をそらすが、自然と距離は縮まったままだ。俺もその距離感を意識しつつ、笑いをこらえながらタオルを渡す。


外の雨は止んだが、室内には雨上がりの湿気と、濡れた髪・服の温もりが残っている。微妙な距離感、触れ合う体温、照れる表情──それだけで十分にドキドキする。


「……さて、これでようやく落ち着いたか」

俺は小さく笑いながら、二人の肩や髪を整える。二人ともまだ少し緊張しているが、自然に距離を保ちながら、雨宿りのひとときは穏やかに過ぎていった。


雨とぬくもりと距離感の中で、佐伯、天城、来理の三人の関係は、少しだけ近づいた気がした。これから先、どう変わるかはわからない。でも、今はただ、この甘く温かい瞬間を大切にしたい――そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る