[はやボク] 1-14.ネコミミのキャスケット

「ねーねー、ぜったいこのネコミミのキャスケットの方が可愛いってば!」

「可愛くなくていいの。日差しさえ避けられればそれで充分」

 今日は、ボクからソラを誘った。ショッピングなんてボクにはあり得ない選択だけど、人を誘うのも、更にボクにはあり得ない選択だ。

 ……あのときの話の続きをしたかったから。

 ソラの中にある《夢》。

 諦めようとしている彼女の気持ちに、ほんの少しでも光を当ててみたくなった。

 ――でも、ボクが同じ立場だったらどうだろう。あんなふうに笑って過ごせるだろうか?

「じゃーさ、キミと私で色違いのおそろにしようぜ! それならOKでしょ?」

「いやいやソラ、それどこのバカップルなの……」

「えー、いいじゃーん! 私たち、もう心のバディじゃん! バカップル最高っしょ!」

 ……ダメだ、今は言えそうにない。

 ソラだって気づいてる。

 ボクが何を言おうとしているのか、彼女はきっと最初から全部分かってる。分かってて、それを言わせないようように、こんなふうに明るく振る舞ってくれてる。

 気を遣わせてるのは、たぶんボクの方だ。

 情けない。

「……分かったよ。じゃあ、ソラはこの赤とグレー、どっちがいい?」

「やったー! じゃあ私は赤~! キミはネズミ色ね。似合ってるよ」

 情けなくてもいい。今は、ソラのこの笑顔に触れていたい。

 ――いつかこの時間が、手のひらからこぼれ落ちる日が来るのかと思うと、怖くて仕方がない。

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