[はやボク] 1-6.何がそんなに楽しいの?

 2時間目の後の中休み、教室がザワザワしてるところで窓の外の曇り空とにらめっこしていたボクのもとに、やたらと上機嫌な足音が近づいてくる。

「ねえねえ! ちょっと聞いてよ! 絶対聞いて!」

 いつもの《何かあったよ》オーラを全開にしながら、ソラが机にバンッと手をついた。また何か、やらかしたのか?

「……聞いてくれそうな人、他にもいっぱいいると思いますけど?」

「ダメダメ。キミじゃなきゃだめなの。今の私のこの気持ちを受け止めてくれるの、キミしかいないから!」

 どういう基準だよ。そもそもその気持ち、受け止める価値あるの? という疑念を飲み込む。

「なに? 何があったの?」

「さっきさ、飼育小屋に寄ったの! 校庭の!」

「ああ……あったね、そんなの。なんか地味に懐かしい響き」

「でしょ? 校庭ってさ、いわば《学校の庭》なわけじゃん? 校・庭!」

「まあ……そうだね……」

「で、そこにね――いたんだよ」

 ニヤニヤが止まらない顔。嫌な予感しかしない。どうせまたどうでもいいことを重大ニュースみたいに言うパターンだ。

「いたって……何が?」

「くくっ……鳥が……」

「ああ、飼育小屋なんだから、そりゃそうでしょ」

「でもね、その鳥がさ……なんと……」

 ここで一拍おくのは、笑いのタメってやつか?

「ニワトリだったの!! しかも――二羽!!!」

「……」

「庭に! 二羽の! ニワトリが!!! あはははは!!」

「……」

「いや~、これ完全にキテるでしょコレ!? 庭に! 二羽! ニワトリ!!」

 ツボに入ったらしい。机に突っ伏して肩を揺らして笑っている。苦しそうなほど笑ってるけど、いや、そこまで?

「……え? それ……ダジャレ?」

「うん!! ダジャレ!!!」

 そんな誇らしげに言うことなのか?

「庭に……にわ……ニワトリが二羽! もう……マジヤバい、笑い止まんない……!」

 ああもう、こっちが恥ずかしいわ。

「よ、よかったね。なんか楽しそうで……」

「ヒィ……助けて……笑いすぎて腹痛い……これ完全に腹筋崩壊事件勃発……! ボッパツって……くくく……」

 顔をくしゃくしゃにして笑い転げるソラ。何これ。こんなくだらないことで、なんでこんなに楽しそうなんだ? この子は。

 この前、ゲーセンの格ゲーで完璧なプレイを見せた《あの》ソラとはまるで別人みたいだ。ていうか……別人なんじゃないの? 本当は双子とかだったりして。

 ああ、これがギャップってやつか。

 自然とこっちも口元がゆるんでしまう。別に面白いとは思ってない、……はずなんだけど。

 いや、ちょっとは笑ったかもしれないけど、それはほら、伝染するやつであって、うん、別にソラのせいとかじゃなくて……

「いやーもう、私、今日一日これだけで乗り切れる気がする!」

 そう言って、まだ笑い足りないのか、ニヤニヤしながら自分の机に座って笑いをこらえ続けるソラ。

 ……なんか変な子。

 でも、悪くない。

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