タワマン中層階

　タワマンを買った。

　駅から10分。2LDKの中層階で8000万。築三十年だがリノベーションされており綺麗ではある。しかし、この部屋が生涯の根城かと思うと、なにか途端にやるせなくなり、滅入ってしまうのだった。低い天井に広くない部屋部屋。どこにいても妙に落ち着かない居心地の悪さ。俺はこの一室のために必死で働き、贅沢もなにもかも諦めて金を貯めてきたのだ。こじんまりとした、いささか自由の効く独房のために。

「これが普通の生活か」

　普通。

　それを得るために人生を捧げてきた。

　しかしそれは、これまで重ねてきた苦労と比較してしまうと、なんとも細やかで、健気なように感じてしまう。自分より遥かに貧しい生活をしている人間がいると分かっていながら、かつてそうだった自分を鑑みながらなお、俺はこの普通の部屋に不満を隠せないでいる。

　とはいえ、また金を稼ぐ苦労に耐えられるかといえば……

「コーヒーメーカーでも買うか」

　益体もないことを呟く。

　無駄なもの買っても満たされるわけもないのに、俺はこの狭い部屋の中に彩りを添えようとしていた。それがいつまで続くのか。考えたくもない。