第2話 幸せというもの

信一郎の仕事は酒の卸業だった。同僚はライバル。いかに、取引先の店にもごり込むか。店員に頭を下げる信一郎。我が家の王子様のために、頑張らなくては。


週末は、場末の酒場で、安酒をあおり、焼き鳥と刺身をつつく。おかみさんに悩みを打ち明ける。そして泥酔して眠りこける。現実の厳しさと悲しみに屈しなくてはならない信一郎だった。


上流階級の反対には、下流階級が存在する。人間は、人に、頭を下げれば下げるほど、勝利する。天狗の鼻をへし折り、プライドをかなぐり捨て、頭を下げる。

ムカついて、怒って切れて、事態が済むのは30歳まで。

自分の武勇伝をひけらかして、通用するのは40歳まで。

夢に向かって頑張っていますなんて、人に、言いふらす者は、心幼き者。

そんな彼らの下僕にも、信一郎は、ならなくてはならない。

もちろん、仕事で突きつけられるクレーマーにも頭を下げる。

「僕らは、幸せになりたいんだ!」

信一郎は、自分に言い聞かせる。


二人の王子さまは、すくすく育った。やがて、成人した彼は、社会に頭を下げることを覚える。大人になったのだ。彼は、自立して家を出る。

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