第28話 ヒト喰いの教導


 ダン、ダン、ダン、ダン、と四度続いた銃声。


 四体のゾンビが、それぞれ近い順から右肩、左脇腹、みぞおち、頭を撃ち抜かれ、イプシロン級を仕留めるには十二分な威力を持つ対異形弾により、肉片となって吹き飛んだ。


「──発砲する時にひじを曲げるな」


 その光景をソファに座ったまま見ていた俺は、立ち上がって少年の腕を掴む。


反動リコイルを逃がす撃ち方だ。自動拳銃オートマチックでソレをやると弾詰まりジャムなんかの動作不良を起こす原因になる」


 スタンダードな射撃姿勢へと調整し、何秒か維持させ、感覚的に教え込む。

 こういうのはああしろこうしろと口先で理屈こねるより、そうするべき理由の説明を交えつつ身体に直接覚えさせた方が早い。


「癖がつかないうちに直せ。割と致命的だ」

「は、はい」


 いっそリボルバー式に持ち替えさせるのも手だが、装弾数が少ない上にリロードの手間もかかる銃を使うメリットは薄い。

 そもそも対異形弾を撃てるリボルバーとか、見たことないし。


「よし、その構えでいい……場数を踏んで慣れてきたら自分に合ったやり方を混ぜてくのもアリだが、まずは基本を身につけろ」


 しかし懐かしい気分だ。凶三きょうぞう異形因子保持者スキルユーザーになったばかりの頃も、こんな風に銃の扱いを教えた。

 ……あっという間に俺より上手くなったもんで、しばらく立つ瀬がなかった。


「ま、すっとろいゾンビをまとに、当たりさえすればワンキル確定の弾を使ってるとは言え、二秒足らずで四匹仕留めた早撃ちは悪くなかった。狙い方を大雑把おおざっぱに口頭しただけでそこまでやれるなら、射撃のセンス自体はあると思うぜ」


 三日目くらいには、もはや苦し紛れで「いいセンスだ」としか言えなかったっけか。

 教える相手の飲み込みが早すぎても、それはそれで苦労する。


「はいっ! ありがとうございます!」


 こういう音の響きやすい階層フロア迂闊うかつに大声を出すな。

 クリーチャーに居場所を伝えてるのと同じだぞ。






異形因子スキルの活性化は、とにかく数をこなせ」


 目を閉じ、肉体を変異させようと歯を食いしばる少年の背中を指で突く。


「わっ……!?」

りきむな。必要なのは自然体で受け容れることだ」


 後天的に得たチカラを自在に操るのは容易よういではない。

 例えば腕がいきなり四本になったとして、増えた二本を元々あった二本と同じレベルで扱えるようになるまで、おそらく長い時間を要するハズ。


 腕ですら、そうなのだ。

 備わるのが既存きそんの器官とは一切異なるものとなれば、更に難易度は増す道理。


異形因子スキルを特別なものととらえるな。あって当然、使えて当然、生まれた瞬間ときから持っていた。そういう認識を作れ」


 もっとも、頭で考えて即座に実行できるようなら世話無い。

 ひたすら反復し、身体だけでなく精神こころにも異形因子スキルの存在を浸透させなければならない。


 俺は半日ほどかけた自己暗示で強引に馴染ませたけど。


「因子活性時に特定の動作や言葉なんかのルーティンを紐付けるのも効果的だな。毎回同じポーズで変異すれば、そのうちポーズを取るだけでスムーズに変異できるようになる。更に突き詰めれば、いずれはだけで活性と非活性をコントロールすることも可能だ」

「そうなの?」


 こてん、と首を傾げるジル。

 お前はこういう地道な作業を全部すっ飛ばしたもんな。ざっくりと理屈を説明しただけで異形因子スキルの制御をマスターしたし。

 凶三きょうぞうとは別ベクトルで指導に困らされた。


 とは言えコイツの場合、発現したのが強力かつ広範囲に影響を及ぼすタイプの異能だったから、さっさとモノにしてくれて助かったんだが。


 五年前当時の拠点ホームは建物ごとブッ壊れたけどな。






「新入りが一番苦労するのはだ」


 モール散策中、かなり昔の同業者とおぼしき亡骸なきがらを見つけた。


 少年に与えたものと同一規格の対異形弾を持っていたため、頂戴ちょうだいする。死人の持ち物など六文銭ろくもんせんだけで十分だ。

 こういう時、腐敗や酸化などを極端に抑えてくれる異界ダンジョンの基本性質はありがたい。


「さっきも言った通り、単独で界断かいだんを開ける奴はひと握りだ。必然、異界探索者シーカーとしての活動は一党パーティを組むことが前提」


 が、相手だって道楽で異界ダンジョンおもむいてるワケではない。

 異界探索シークのイロハも知らないド素人を迎えたところで足を引っ張られるのがオチだし、余計な頭数が増えれば拾得物アガリの分け前も確実に減る。

 一回や二回の同行ならともかく、継続した仲間を作ることは結構な難行なんぎょうだ。


 無論、後輩に貸しを作っておくことは長い目で見れば自分の得にも繫がるが、実を結ぶまで最低でも何ヶ月かは必要。

 そんな未来の話に労力をけるほど気の長い奴は、生憎あいにくと少数派。


 ゆえに、ある程度の経験を積むまではトーキョー中を転々としながら先輩方に頭を下げて回るのがセオリーとなる。


 俺は下げたことないけど。下げさせたことなら何度もある。


「同期でも居れば少しは変わるんだろうが、異形因子スキル移植手術の成功率をかんがみれば、そう都合良くも行かない」


 移植手術は月に一度か二度、ある程度の申請者が集まった段階で一緒くたに行われる。

 大抵は全滅か、片手で数えられるくらいしか残らない。


 しかも、あまり知られていない話だが、その先に待つのは更なるだ。


 ──異形因子スキルの定着に成功したうちのは、施術中の痛みで気がふれてしまう。


 そうなった場合、暴走する危険性が極めて高いため、即刻殺処分される規定。

 術後、生きて地上アウターへと戻れる異形因子保持者スキルユーザーは、おおむね五割を切る。


 ついでに、採用されれば家族ごとチュウオウ区で暮らせる上、働き次第では地下アンダーが与えられることすらある地上警備隊の存在も、ほとんどの確率で死ぬ移植手術そのものに二の足を踏ませる要因となっていたりする。

 狭すぎる門、小さすぎる受け皿であっても、応募し続ければいつかは……という未来を想像する余力があるうちは、なかなかな。


 したがって同期どころか、新人の異形因子保持者スキルユーザー自体が二ヶ月や三ヶ月に一人の割合でしか生まれないのだ。

 あゝ無情レ・ミゼラブル


 …………。

 そういう面では、少年が招集コールに応じた浅慮せんりょにも一応の利があったと言えよう。

 あくまで結果論に過ぎないけど。


「今回集まった奴等は、行儀も悪けりゃ教養どころか品性の欠片もねぇ、頭スッカスカの連中ばっかだが……それなりに腕は立つ」


 立て板に水で言っといてアレだけど、本人たちが聞いたら怒号が舞い散りそうだな。

 オフレコで頼むわ。ホントあいつら、プライドだけは一丁前なんだよ。


「今日の仕事が済んだら朝みたく集合かけて、顔合わせの機会を作ってやる」


 ほぼ全員が化粧やら香水やらで洒落しゃれっ気を出していた、対スタンピードの招集コールを合コンか何かの呼び出しと勘違いしてる疑惑アリなアホどもが俺の頼みを素直に聞くかは、正直なところ微妙だが。

 まあ、全くの初対面よりかは声もかけやすくなるだろ。






「じー」


 残弾数に余裕ができたため、ゾンビを撃ちまくる少年の様子を少し引いた位置で見ていたところ、ふと横から視線。

 と言うか、擬音が声に出てる。


「なんだよジル」

「別に? ただ、やっぱり貴方は優しいなぁって」


 クスクスとこぼれる笑い声が、顔をヴェールを揺らす。


 別に優しくはない。

 強大すぎる発電能力を制御する取っ掛かりが掴めず、周りへの被害を抑えるため異界ダンジョンに何日ももり続けて死にかけてたお前を拾った時と同じ、単なる気まぐれだ。


 …………。

 しいて動機を挙げるなら、ちょっぴりから、だろう。


 ──死んだら死んだで、少なくともこれ以上お前の重荷にならなくて済むじゃないか!


 目を細め、思い出す。

 十年前、なんの相談もせず異形因子スキル移植手術を受けて帰ってきた凶三きょうぞうと、初めて本気で大喧嘩した日の一幕を。


 ──いつまでも守られてるだけの役立たずでいたくない! お前の隣を堂々と歩けるようになりたい! それができないなら、いっそ死んだ方がマシだ!


 あの時、泣きながらそう叫んできたアイツと、かぞくのために命をけた少年の姿が、ちょっとだけダブった。


 肩入れする理由なんざ、それだけで十分だ。

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