第26話 カシマレイコ
〈よこせ〉
やや危なっかしくも少年がゾンビ五体を自力で倒し、めでたく
射撃は元より、あらゆる立ち回りが未熟以前の域だったけれど、まあ上出来だ。
〈よこせ〉
たとえ
ゆえに休憩がてらジルが
〈手をよこせ〉
足音ひとつ無く現れた
「あぁ?」
スカート部分が乾いた血で赤黒く汚れたワンピース姿を着た、若い女のカタチ。
容姿は女怪にありがちな、
しかしテケテケあたりと違って這い回ったりはせず、宙を滑るように移動している。
そりゃ足音なぞ立つワケないわな。足そのものがねぇんだもんよ。
「なんか用か」
握り締めたままの拳銃を構えようとした少年を制しつつ、声をかける。
ちょっと肩の力抜け。そんなガク引きじゃ当たる
〈手を、よこせ〉
「……ああ、なんだ。お前『カシマレイコ』か」
久し振りのエンカウントで気付くのが遅れた。
モールにも出るのか、こいつ。
〈手をよこせ……!〉
カシマレイコ。
他にもカシマさん、カシマさま、
いわゆる「その話を聞いた人間のところに現れる系」の怪異って部分だけは、おおむね共通した特徴なんだが。
もっとも、話の枝分かれなど怪談や都市伝説では珍しくもなんともない。
ネットが一般まで広く出回ってた時代に流行ったネタは特に
〈手をよこせぇ……!!〉
クリーチャーとしてのカシマレイコは、質問への解答を間違えたら手足を奪うべく襲ってくるという、スラッシャーとテケテケを足したような性質を持つ。
三つ四つ適切な問答を繰り返せば、何の危害も加えずに引き返す。
の、だが……どう答えればいいんだっけか、これ。
そこらへんのパターンも話によってバリエーション多過ぎて、いちいち覚えてないんだよな。
…………。
めんどくさ。テキトーでいいや。
「オーケー
〈──けぇああああぁぁぁぁッッ!!〉
そう言って両腕を差し出すと、カシマレイコは奇声を上げながら右手首を掴んできた。
そのまま引きちぎるつもりらしく、目一杯に力を篭めてくる。
〈りぎぃぃいいいい、いぎぎぎぎぎぎぎッッ!!〉
力を篭める。
〈よこせ、よこせっ、よこせぇっ、よこせぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!〉
篭める。
〈るぐぅぅううっ、ふうゥゥゥゥ!!〉
どんなに力を篭めても俺の右腕は微動だにせず、業を煮やして噛みちぎろうとするも、文字通り歯が立たない模様。
何やってんだコイツ。
「こっちも暇じゃねぇんだ、手早く済ませろよ。手だけに」
自分で自分を殴りたくなるレベルのつまらんジョークはさておき、なんと非力な。
長引かせるのも悪趣味だし、さっさとカタをつけるか。
「噛むのを手伝ってやるよ」
〈がッ……!?〉
左手でカシマレイコの頭を押さえ、
合わせて、右腕を引き抜く。
そして一緒についてくる、蹴りの衝撃で釘を打ち付けるように突き刺さった十数本の歯。
奥歯以外のほとんどが、綺麗な歯形状に並んで前腕へと残っていた。
「根こそぎとは酷いもんだな。
歯の一本を抜き取り、親指で弾いて飛ばす。
左耳に大穴が
「セット」
指輪型スイッチを押し、
引き抜いた
──そのついでで、腹に十字の切れ込みを入れた。
「一丁上がり」
右の
背後からヒッと悲鳴を押し殺したような声。グロ耐性は早めにつけといた方がいいぞ。
〈ッッ──〉
倒れかけたカシマレイコの
次いで
〈ッ、ッッ!!〉
「はぐっ、んっ、んぐっ、ふぐっ」
不味い。生臭い。あれこれ部位が混ざって食感も悪い。
もし、こんなもの食う奴が俺以外に居たら、そいつの神経を疑う。
「…………あ」
しまった。ここなら普通の食料なんざ文字通り腐るほどあるのに、ついクリーチャーを食っちまった。
女怪と見るや流れるような捕食。習慣って恐ろしい。
「ぷはっ。ごちそう、さんっ」
傷口に手を突っ込んで背骨を掴み、そのまま引き抜いた。
トドメとして
あっという間に腐り始めた
いちいち武器を出したり収めたりするのが面倒で仕方ない俺にとって、気軽に使い捨てられる即席の数打ちは非常に快適だ。
良いオモチャを買った。
血まみれになった顔を袖でぬぐいつつ少年を振り返ると、実に面白い顔をしていた。
「チュウオウ区にクソ不味いラーメン屋あるだろ? あんな不味いのに月一で行きたくなるあたり、もしかすると本当は美味いんじゃねぇのかって思うんだが、どうよ?」
色んな表情をいっぺんに浮かべられるとは器用だな。
「……えっと……その店に行ったことないんで、ちょっと分かんないです……」
そうか。それもそうだ。
今度連れてってやるよ。
「ところで」
口周りの血を舐めとり、呉服屋の店頭に飾ってある二枚の着物を指差す。
白と黒。桜模様と椿模様。
「銀髪色白の女に着せるなら、どっちの方が
「…………み、右?」
なるほど。ちなみに俺は左派。
まあいいか。両方もらって帰れば。
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