第24話 対スタンピード招集


〔あー。あー、テステス〕


 珍しく賑わったヨツヤゲート前。

 メガホンのスイッチを入れ、マイクテスト。本日は晴天なり。


 積み重なったガレキに腰掛け、集まった異界探索者シーカーであり異形因子保持者スキルユーザーでもある面々を見下ろす。

 俺とジルも合わせて全部で四十三人か。まあまあだな。


〔足をお運びいただいた諸君。まずはケチな協会に代わり、礼を言っておこう〕


 よく見れば先日の新顔らしき少年まで居る。他は女ばっかだし、まさしく黒一点。

 表情や立ち居振る舞いから察するに、招集コールされてワケも分からずここまで来たってところか。初仕事が対スタンピードとは、運が良いのか悪いのか。


地上アウターの明日を守らんと呼び掛けに応じてくれた諸君らの聖女がごとし献身けんしんなど、地下アンダー安穏あんのんと暮らす蒙昧もうまい共の心には響かないだろう。しかし陽下ようかで生きる五〇〇万人の民草たみくさにとっては確かな希望であり──〕

「なに気取ってんのよ人喰いシャチー!」

「私たち、わざわざアンタの演説聞くために集まったんじゃないんですけどー!?」

「ねえ、そう言えばシャチって何?」

「なんかの魚」


 すげぇ勢いで野次ってくるじゃん。ウケると思ったんだが。

 せっかくアーカイブで旧時代の政治家連中の答弁とか見て参考にしたのに。あいつら使えねぇなオイ。


「そもそも高いとこから見下ろしてんじゃないわよー!」

「降りてきなさいレイシストー!」

「ファシストー! アナーキストー!」

「それどういう意味?」

「さあ、知らないけど多分悪口」


 言葉の意味も分からず、好き勝手罵倒ばとうしやがる。


 このトーキョーに都合二百人ほど散らばってる異界探索者どうぎょうしゃたちの俺に対する態度は、基本的にビビりまくって近寄ろうともしないか、さもなくばコイツらのようにナメくさってくるかの両極端な二択だ。

 そして今回の招集コールは俺が発起人ほっきにんである以上、後者ばかり集まるのは自明の理。


 まったく、それにしたってギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーギャーと──


〔──うるせェぞメスども! 喰われてェか、あァ!?〕


 異形因子スキルを活性化。耳元まで裂けた口を開け、あらん限りにえる。

 合わせてメガホンを投げ捨て、飛び降りた。


「やめだやめだ! たまには趣向しゅこうらそうとしたのが間違いだった! お望み通りサクサクやってやるよ!」


 寸前まで足場に使っていたガレキの山へと拳を叩き付け、跡形もなく粉砕。

 立ち込めた粉塵ふんじんが風で吹き流れ、巻き上がった石片や鉄片が遅れてパラパラと降り注ぐ。


「やるこたァいつもと同じ! 対スタンピードだのと小難しく考えるな! 手当たり次第クリーチャーをブチ殺せばいいだけだ!」


 どうせ他に取り柄なんかねぇだろ、と勢いで漏らしかけるも寸前で呑み込んだ。

 うっかり口走ろうものなら、さっき以上のブーイングを食らうのが目に見えてる。こいつら誰も彼もプライドだけは一丁前だし。

 戦いは数だよ兄貴、との名言を残した宇宙攻撃軍総司令官の理屈で行けば舌戦ぜっせんとは文字通り使える舌の枚数が物を言うのだ。四十人が相手とか、いくらなんでも分が悪い。


「早期発見につきエーテル濃度はイエローゾーン! これだけ居りゃ二日もあれば終わるヤマだ!」


 用意しておいたホワイトボードに、協会発行の依頼票を勢い良く貼り付ける。


「参加報酬として四ヶ月分の返納ノルマ免除を確約させた! 当面の間、せっかくの拾得物アガリをゴミみてぇな寸志すんしと引き換えにしなくて済むぞ!」

「四ヶ月! 悪くないわね!」

「さっすが逆叉さかまたー! 大好きー!」

「ちょ、やめなって……! 見てる、ジリアンがめっちゃバチバチさせてアンタのこと見てるから……!」

「ひいぃゴメンナサイ調子に乗りましたー!」


 湧き上がる黄色い歓声。あと何故か一部悲鳴。

 なんて調子のいい女どもだ。


「俺が把握はあくする範囲内で異界門ダンジョンゲートと直通してる十七ヶ所および各々おのおのと隣接する全八十四階層フロアの大まかな地形と出現クリーチャーを資料に纏めておいた! いくつか下層や深層も混じってるからな、うっかり迷い込みたくなけりゃ一人一冊持って行け!」

「ねー、アタシ字読めなーい!」

「私もー!」


 んなもん読める奴と組めばいいだけの話だろうが。どのみち異界ダンジョンでは複数人での行動がスタンダードだし。

 そこまで面倒見きれるかっての。一応ピクトグラムを多用して感覚的に理解しやすくは作ったけども。






 集まったメンバーを、普段つるんでる奴やら能力的に相性の良い奴やらで三人から五人ずつに振り分ける。

 全部でちょうど十チーム。ひとつの階層フロアに大人数を固めても効率が落ちるため、四十五分ごとに三チームずつ送り込み、本来は厄介なギミックである接続座標の切り替わりを利用して行き先をズラす。

 グッドラック。何かあれば通信機で連絡するように。他の階層フロアと繫がるかは運次第だが。


「──ぷはぁっ! 無理無理無理無理、あそこ無理!」

「すっごい毒だった! 息するだけでヤバかった!」

「目に沁み、ぅえぇ……涙、止まんなっ……」

「アタシ平気ー」

「あれ大丈夫って、アンタどーゆーカラダしてんの……!?」


 不運にも第三陣が劇毒げきどくで満たされた階層フロアを引いたため、トンボ返りで仕切り直し。

 あそこは異形因子保持者スキルユーザーの中でも上澄みの免疫めんえき機能がなければ耐性を貫通されるほど毒性が強いし、まあ仕方ない。


 そうして第一陣の出発から三時間。

 最後に残った一チーム、つまり俺たちの番となった。


「順番を入れ替えて私たちが行けば、わざわざ待たなくて済んだのに」

「俺やお前は耐えられても、がいきなり毒漬けは流石にロックすぎるだろ」


 ちなみに今回、凶三きょうぞうは留守番。

 多数を相手取るならジルの方が適任。


「よーし新入りルーキー。まずは基本的な指示オーダーを伝えておく」

「は、はいっ!」


 一番死ぬ確率が高い奴を他所よそに回すのは色んな意味ではばかられたため、半ば必然の流れとして同じチームに引き取った少年が背筋を伸ばし、上ずった声で返事をする。

 初々しくて良いリアクションだ。目ぇ離したら真っ先に死にそう。


「活躍しようとか役に立とうとか、そういう余計なことは差し当たり考えなくていい。危ないから何があろうと俺のそばを離れるな。危ないから何があろうとジルのそばには近寄るな」

「はいっ! ……はい?」


 俺とジルの顔を交互に見やり、ぱちぱちと目をしばたかせる少年。

 いいんだいいんだ、疑問に思わなくても。人間は考えるあしであるとは十七世紀の哲学者が遺した言葉だが、時には何も考えず言われるがまま動いた方が丸く収まる状況ってのも人生には少なからずあるんだから。


「あとは……あー、思いついたら逐一ちくいち伝える。とりあえず今の三つは大前提ってことで、くれぐれも守るように」


 選べるもんなら命日くらい自分で選びたいだろ、と最後に添えると、少年の顔が引きつった。

 ちょっと脅かすみたいになったが、釘は深めに刺しといた方が抜けにくい。


「よし。行くか」

「ええ」


 ベルトで後ろ腰に固定した得物オモチャの主電源を入れる。

 その駆動音とかすかな振動に口の端を上げつつ、薄汚い虹色の膜へと踏み込んだ。

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