崖際のトーキョー
第20話 仕立て直し
「──
鯉口付近に取り付けられたトリガーを引くことで鞘と刀身を接合する電磁石の極が切り替わり、一転して凄まじい
放っておけば軽く十メートルは吹っ飛んでいくだろう勢いを斬撃の初速に利用し、下肢の強化外骨格で地面に食い付いた足腰を捻り、全ての運動エネルギーを残らず刃先に集中させ、一刀を振るう。
横薙ぎに振り抜いてから、コンマ数秒。
何千何万回とハンマーを打ち下ろしても微動だにしないだろう
「悪くない」
ブレードを鞘に収め、射出抜刀機構の誤作動防止に
「
「部品交換のついでに、ひと通りオーバーホールしといた。少しは骨董品を
差し入れに持ってきたタバコをふかしながら、年代物のパソコンで打ち出した請求書をカウンターに置くオジキ。
流石、元は
「……
「差額分は私の身体で払えということか。見損なったぞエロジジイ」
着付けがいい加減なため
マジか。最低だなエロジジイ。
「おめぇら人をからかって楽しいか……? 金払いのいい得意先相手だ、ちったぁ値段も勉強するさ」
「オジキがそんなに
「ひとつ賢くなれて良かったな。ま、これのお陰で近頃は商売もやりやすくなったし、みかじめ料とでも思え」
そう言ってオジキがタバコの煙を吹きかけたのは、壁に貼ってある
しばらく前に
「人喰いシャチの縄張りで調子に乗った奴は肋骨抜かれて噛み殺されるってな。すっかり名前が売れたもんだ。昔はもう少し可愛げが……いや、よくよく思い返せば小僧の頃から大概だったな、てめぇの場合」
「そこらの連中とは製造過程が違うんでね」
それに俺は十六年前、初めて
しかも因子活性時は分かりやすくバケモノじみた姿となる
……喧嘩。喧嘩か。
「そうだオジキ。例のアンプルはどうだった?」
グループ名は忘れたが、
キナ臭さ全開で気になって仕方ない。さっきまで存在ごと頭から抜け落ちてたけど。
「ああ、アレか。預かる時にも言ったがウチは二大企業の研究所じゃねぇ。一応調べてはみたがな、
なるほど。やはり
ちょうど今日がアイツのところに行く日だし、いざ答え合わせと洒落込もうか。いいタイミングで思い出せて良かった、危うくすっぽかすところだ。
「ン」
たどたどしく硬貨を数えながら
「オジキ。こんなもん、どこで拾ってきたんだ?」
「目ざといな、そりゃ掘り出しモンだ。買うなら調整に三日もらうが、費用込みで安くしとくぞ」
どうも今日のオジキは気前が良すぎて気持ち悪い。
まあ、大方
みかじめ料だの勉強価格だの、調子のいいセリフを並べてくれたもんだ。商売人め。
「買った。たまにはオモチャで遊ぶのも悪くねぇ」
「なら
アクセサリーのノリで結構な危険物を欲しがりやがる。
「この前の金はどうした。ジルと三人で
「今の支払いでちょうど尽きた」
今の支払いでちょうど尽きるほど
どうせまた炊き出しにでも
「……オジキ。あれも包んでやってくれ」
てめぇクソジジイ、そのイラつくニヤけ面やめろ。
はっ倒すぞ。
場所は変わり、
今回は二番昇降機。稼働している三台の中で最も状態が悪いためか、乗客は俺たち二人だけ。
「そう言えば貴様、何故あの男のことを
ブレードと一緒にオーバーホールを受けたことで、ここしばらく耳障りだった嫌な
もっと
「あー。
「私と会うよりも前か」
「ほぼ入れ替わりだな。お前を拾ったのは、オジキのとこを出てすぐだぞ」
懐かしい。当時の俺が十一歳で
あの時は単なる気まぐれのつもりだったが、長い付き合いになったもんだ。
ガタガタ揺れまくる不快な時間を
三番もだが、いい加減にエレベーターの整備と修理をしろ。そのうちマジで壊れるぞ。
「貴様と
「言われてみれば確かにな。買い出しにせよ何にせよ、基本は俺一人か連れて来るにしてもジルの方だし」
「買い物の計算は私よりジルが
「アイツもアイツで七の段あたりが怪しいけどな……」
派手な着物一枚を緩く纏っただけの
高周波ブレードと強化外骨格で武装してなければ
「しかしデートの誘いなら、せめて前日に言ったらどうだ。私にも準備がある」
「生憎と違う。ちょっとした野暮用でな」
ポケットから一万円硬貨を何枚か掴み取り、
「好きに遊んでろ、三時間で済ませてくる。終わったら協会のロビーで落ち合おう」
たぶん渡した金はガキ共への
「野暮用とは何の用だ?」
「あー……」
適当に言葉を濁して誤魔化し、足早と立ち去る。
なにせ、ジル以上に不仲だし。
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