第21話 管理区
つまり、どこからでも一定以内の距離。物を運び込むにしろ持ち出すにしろ、買い物をするにしろ帰るにしろ、理想的な動線と言えるだろう。
しかも区画同士を繋ぐ主要道路は大型トラックが四台並んでも余裕で通れるほど広く、交通インフラという点でも申し分ない。
また、商業区と各区画の境界は長さ一〇〇メートルほどのトンネルとなっており、ここは治安維持局の支所も兼ねている。
したがって通行には局員のチェックが必須。地下深くゆえ他に道など無いため、そこらへんも
中でも、管理区行きの
気温と湿度の調節、空気の清浄と循環、電気や水のリソース配分、疑似降雨に人工風の設定、他いろいろ。
…………。
ま、要するに。
「止まれ! その場で両手を上げてゆっくりと膝をつけ!」
「
そんなところに
ヨツカド社とトヨモト社、二大企業両社の
サイボーグ兵どもが絶えず銃口を突き付けてくる中で
まったく、
しかも現在、道案内という名目の連行中。三人の
犯罪者か俺は。確かに叩けばホコリの出る身体ではあるけども、流石にここまでされるようなことはしてないぞ。
……少ししか。
発電所や浄水施設などを
なにせ局員の総勢は二千人足らず、しかも千人以上が
必然、こっちは
ただしサイボーグ兵が
細かい判断に多少の難こそあれ、食事も睡眠も必要無い上に高い戦闘能力を持つ。こうした拠点防衛には生身の人間を置くよりも適切なんだろう。
実際、あれらの導入によって二大企業は治安維持局の大規模な人員削減を行ったワケだし。十年くらい前までは今の五倍くらい居た記憶。
更にサイボーグの増産と配備が進み、知能のアップデートも進めば、そのうち全ての労働を肩代わりするようになるかもしれない。
治安維持局の幹部官舎は懐古主義な当時の局長が強く希望した結果、旧時代の高級ホテルを意識して建てられたらしい。
いつ見ても
「……入れ」
俺を連行してきた
「案内ありがとさん。お陰で快適な散歩だった」
溜息混じりに皮肉を返し、背中越しにひらひら手を振りながら自動ドアをくぐる。
掃除の行き届いた清潔なエントランス。敷き詰められた
「──来たか、
静まり返った空間に、淡々と
「お前のことだ。私との約束など忘れていると思ったが」
「いっそ忘れてた方が良かったかもな。しばらく
右目を覆う無骨な眼帯には、真新しい引っかき傷。
シャワーでも浴びたばかりらしく湿り気を
今日は非番らしく、制服ではなく縦ニットのハイネックセーターを着ている。
「すまなかった。支所の奴等には話を通してあったんだが」
「構わんさ。
若くして千人からなる部下、万機に迫るサイボーグ兵の
俺と隣同士の
二大企業がサイボーグ兵の量産に
「もう食事は済ませたのか?」
「いや。そう言えばまだだな」
「用意してある」
そいつは
ありがたく
幹部官舎の十四階に与えられた
暇な時はいつも作っており、もはや
「で、料理も自炊か。お前なら料理人くらい雇えるだろ」
「他人を部屋に入れたくない」
「ウチの女どもと同じこと言いやがって」
香ばしい匂いを漂わせるステーキにナイフを通し、頬張る。
生産区で造られてる
「どうだ」
「特権階級の味がする」
「そうか」
付け合わせの
一食いくらだ、これ。
「あとでリンゴも剥いてやる。好きだったろう」
「懐かしすぎて味なんか忘れた」
リンゴみたいなほっぺをしたクリーチャーなら、よく食うんだが。
通称『レッドフード』。グリム童話の赤ずきんをモチーフとした、外見はほとんど十代後半の人間と変わらない女怪。
人懐こく、どの個体も俺をオオカミさんと呼んでくる。肉はクソ不味いが柔らかい。
これまた高級品のソファに腰掛け、食後のコーヒーで一服。
さもありなん。
「髪が傷んでいるな。手入れしてやる」
反応を返すよりも先に
常に何かしてないと落ち着かないタチは、昔から全く変わらんな。
…………。
ああ、そうそう。肝心の用件を忘れるところだった。
このままじゃ、ただくつろぎに来ただけになっちまう。
「頼んでた調べ物の件はどうなったんだ?」
本題を切り出すと、俺の髪を撫でていた
三秒ほど間を置いて、耳元に口を寄せられた。
「先に聞くが、あれをどこで手に入れた?」
「あぁ? シブヤのチンピラが持ってたって言ったろ?」
「そうか……」
再び三秒、間が挟まる。
次いで
「まず結論から言おう」
肩越しに腕を伸ばし、指先で摘まんだ小瓶を目の前に
毒々しい蛍光色の液体で満たされた、あのアンプルだった。
「──これは、人間をクリーチャーに変える薬だ」
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