第19話 ありふれた帰宅風景
「む」
「見えるようになったか」
「ひとまず片方だけだがな」
一時間だったり八時間だったり、最長だと丸一日見えないままだったこともある。しかも規則性が無い。もしかしたら何かあるのかもしれないが、少なくともコイツが俺に黙って
それもあって余計に使い勝手が悪いんだよな。さっきみたく完全には決まらなかったりもするし。即死攻撃は肝心な時ほど外れるのが世の常か。
「水をくれ。
……なんかアレだな。
いくら女の方が男より十倍以上も手術成功率が高いとは言え、それでも平均五パーセント未満だぞ。一発勝負で命懸けるには低すぎる数字だろ、何考えてんだまったく。
「ほれ」
「わぷっ」
濡れタオルを投げたら片目で遠近感が掴めなかったらしく受け取り損ね、顔面でキャッチした
なんだよ、こちとらリクエストに応えてやったんだぞ。もし文句があるなら書類に必要事項を書いて三番窓口でハンコもらったあとに六番窓口で三部に印刷して九番窓口と十三番窓口に一部ずつ提出、残りは控えで持っておけ。
そのうち呼び出すから。気が向いたらな。
…………。
「あー、クソッタレめ」
エーテル測定機の計測結果を見て、そんな悪態が口を突いて出る。
「もしかしたらとは思ったが、やっぱりか」
一昨日、ジルが電気焼肉をした際の残り香。
この分だと、あと数日はここを通るたび顔をしかめることになりそうだ。
せめてもの対抗手段に
バニラ系の甘ったるい香りが嗅覚に纏わりついて、けっこう効果的。
「私を
そう言いつつも程よい角度に首を傾けてくれるあたり、お優しいことで。
この
「また裏から入るのか?」
「ガキ共に泣かれちゃ面倒なんでな」
正面の
全員居る。怪我人病人の気配もナシ。それに一昨日はしょぼくれてた新入りの片割れも、少しはマシになったようだ。
「あー! きょーぞーだー!」
「お帰りきょーぞー!」
「ジルお母さーん! きょーぞー帰ってきたー!」
ほどなく響き始める出迎えの声。
五歳から十歳まで
「ええい貴様ら、わらわらと寄ってくるな! それと呼び捨てにするな! 年長者には敬意を払えと教えているだろう!」
「でも、きょーぞーはきょーぞーだし」
「きょーぞー以外だとなんか違うよなー」
「ならばせめてちゃんと発音しろ! 間延びさせるな! 私は
「「「きょーぞー!」」」
完全に舐められてやがる。まあアイツに保護者としての
それに、形はどうあれ慕われてるのは間違いない。そもそも顔を出すだけで
「……ン?」
ふと前方に人影を見とめ、足を止める。
敷地内に意識が向いていたため、気付くのが遅れた。
「…………」
俺が廃材から作った鉄柵を見上げて立ち尽くす、どう見てもロクに食えていない、やつれた子供。
汚れてて外見だと判別しにくいが、匂いで女の子だと分かる。
ひとまず孤児と推定するが、だとしたら女子の孤児は珍しい。
よっぽどな容姿でもなければ男子より高値がつくため、大抵どっかに
ましてや、ここはシンジュク区。トーキョーでもワースト争いに加われるほど治安の悪い一帯。子供がフラフラ出歩いてたら十五割の確率で二度とシャバには帰れなくなる。
なぜ十五割かと言えば、まず一回確実に
「おい」
通り道に立ってる以上は無視するワケにもいかず、仕方なく声をかけた。
そこで初めて俺に気付いたらしく、ビクッと肩を震わせながら
「見ない顔だな。ここで何してる」
「あ、ぅ……」
「親兄弟は居るのか? 家はあるのか?」
五秒待つもリアクション無し。やはり家なき子か。何日か前にトシマ区とブンキョウ区でゴロツキ共の抗争があったらしいから、恐らくそれに巻き込まれた一般住人の生き残りだろう。
そう一人で納得していると、向こうは泡を食ったように
「ひいっ……!」
「何もいきなり逃げることねぇだろ」
動けないどころか声も出せないレベルで硬直。目には涙。震えて歯の根が合ってない。かろうじて漏らしてはいないのが奇跡な有様。
やはり俺と子供の相性は最悪だな。さっさとプロに任せるか。
「そーら」
五歳か六歳あたりだと思われる年頃を差っ引いても軽すぎる
直接は見えないものの、ちょうど落下地点に立っていた
「……ジル! ジリアン! 空から、空から女の子が降ってきた! やはり天空の都市は本当にあったんだ、私は間違っていなかった!」
何言ってんだアイツは。
少しアーカイブ視聴を控えるべきだな。人間の意識を取り込んで
実際、似たような環境の
ちなみに俺のことだ。まさか本当に滅ぶとは思わないじゃん。
…………。
しかし、これで
このところ物価も上がる一方だし、マジでいくら稼いでも足りやしねぇ。
──ま、いいか。
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