第17話 反魂香
「なんか、急にクリーチャーと出くわさなくなったな」
ところどころの木々に青い紐が巻かれた一帯を進むことしばらく。
あまりにも静かすぎる周囲の様子に、ひとまず足を止めた。
「これだけ見通しの利く
実物なんか見たことないし、とっくに絶滅してるだろうけど。
「近くに何も居ないってワケじゃなさそうだな」
探知できる範囲内に少なくとも七体、息を潜めたクリーチャー共を
当然、その中の
そして──俺たちが進んでいる方向にだけは、クリーチャーの気配を感じない。
「気に入らねぇ」
どうにも嫌な空気だ。
隣を歩く
「……
普段は強化外骨格で
次いでアサルトライフルへと視線を戻し、銃身側面を叩いた。
「それに、やはり銃では
「だったら今からでも
「まさか。この
ごもっとも。
「……後で示し合わせる暇があるとも限らん、先に言っておく。いざという時は使うぞ」
その言葉と共に細められた真紅の瞳が、正しくは瞳を
俺は肩をすくめ、
「いざという時が来れば、な」
そうせず済むよう、さっさと現場まで行ってモノを回収してしまおう。
片道さえ終えてしまえば、あとは帰り道をこじ開けるだけなんだからな。
八十八番。
色あせた布製の番号札に記された数字を
「着いたぞ」
半径一〇〇メートル前後がクレーター状に吹き飛び、漂う
古い戦闘の……否、恐らくは一方的な
が、これほどの規模となると、流石に表層レベルで見かけることは少ない。エーテル濃度が薄いから高ランクのクリーチャーが出現しにくい環境だし。
「
溶けてガラス質に固まった地面を撫で、
そもそも
戦えば十中八九タダでは済まない。追い払うだけでも相当に骨を折る。
下層とは言え、ここ程度のエーテル濃度なら滅多に現れないのがせめてもの幸いか。出会わないに越したことはない。
「確か真ん中あたりに鞘ごと刺さってた。まだ残ってりゃいいんだが」
「戦場跡の中心に、か。まるで
まるでと言うか、そのものズバリ誰かの
だからこそ前回は持って帰らなかったワケだし。
「けほっけほっ……あー、むせる」
喉にくる
「なんだ、この赤い煙は。
「知らねぇ。前来た時は無かったと思うが、何しろ二年前だしな」
やろうと思えば
「……ただまあ、なんだ。気を引き締めといた方がいいのは確かだな」
渦巻く赤い塵の中心へと近付くにつれ、不快な圧迫感が内臓を
荷物をクレーターの
だがしかし、気配はすれども位置は掴めず、予感はすれども姿は見えず。
そんな一番気持ち悪い状況が延々と続き、そのまま中心部まで辿り着いてしまった。
「あったな」
「んむ」
岩場の地面に真っ直ぐ突き立つ、機械仕掛けの鞘と
強化外骨格のサイズに規格を合わせた
アサルトライフルを邪魔っけに放り投げ、つかつかと歩み寄る
借り物を雑に扱うな。
「ライキリだ」
しゃりん、と小気味良い音を立てて抜き放たれるブレード。
タングステン合金と
「状態はどうだ」
「握った感じ、悪くない。刃のナノメタルは形を保っているし、機関部も無事だ」
そりゃ良かった。欲しいのはそこらへんのパーツだしな。
流石は天下のヨツカド社製。しかも旧時代の製品となれば、品質に関しては超一流。
「じゃ、さっさと荷物拾って退散するか」
今も強烈に感じている気配の正体が気にならないと言えば嘘になるが、触らぬ神に
ここは素直に回れ右で引き上げるのが賢い選択ってもんだ。
…………。
ホント、そうできれば良かったんだがな。
「あー。
溜息を吐く
クレーター内から、もっと言うと赤い塵の内側から続々と這い出す、無数のアンデッドたち。
「『
中国の伝承、煙の中に死者の姿を現すという香を原典にした
旧時代の日本でもゲームに登場したりと、けっこう有名だったらしい代物。
「なるほど。この赤い塵そのものがクリーチャーか」
「そーゆーこった。俺も初めて見る」
存在強度こそ等級内では下位だが、ほぼ無尽蔵に
昔読んだ資料いわく、一番の対処法は煙の中に入らないこと。もう遅い。
「
銃を手に襲ってきた
数こそ多いが、単体としての戦力は大したことなさそうだ。
「
「──
俺の言葉をかき消す
一瞬遅れて、何かの存在を背後に感じた。
「ッ」
四半秒、息が詰まるほどの強大さ。
ここまで大きな気配の接近が何故分からなかったのかと浮かびかけた疑問を胸の奥に無理矢理沈め、振り返る。
反転させた視界に映ったものは、宙へと浮かぶ立方体。
「ッッ」
どうにか状況を飲み込む
淡々と進められる攻撃の予備動作に、考えるより早く
カーミラの時のような小細工を
「かッ」
二歩、右へ。
歪んだ空間が
…………。
あっぶねぇ。だいぶギリギリだが、どうにか射線に割り込めた。
「やれ……!」
本来の標的だった無傷の
そして、俺に言われるまでもなく左目の
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