第16話 カーミラ
「
立ち位置を大きくズラされたついでに近くの大樹へと身を隠し、追撃を防ぐ。
もっとも、やろうと思えばこんなもの簡単にブッ壊せるハズだが。
「今のは何かの飛び道具だな!? 視界の端に拳大の黒い塊が見えたぞ!」
「おー、よく見逃さなかったもんだ」
同様に別の木を盾とした
分間六〇〇発のフルオート射撃。約三秒で弾が尽き、銃を引っ込めて
これで残るマガジンは三つ。ちゃんと
「やめとけ。少なくともラッキーパンチが狙える
「チッ……腕は大丈夫なのか?」
見えやすいように左腕を持ち上げる。
前腕の関節がひとつ増え、折れた骨が内側から皮膚を突き破っていた。
「文字通りの
「なぜ防御する瞬間に腕の強度を落とした」
なんだ。そっちも気付いてたのか。
ちょっとからかうつもりが肩透かし。残念。
「まともに受け止めたら数十メートルは吹っ飛ばされそうだったもんでな」
あえて硬質化を弱めて骨肉を砕かせることで衝撃を和らげ、うまくクッション代わりにしたって寸法よ。
お陰でノックバックは十分の一以下で済んだし、ダメージもゼロ同然。
「問題無いなら早く治せ。見ている私の身にもなれ。気持ちの良いものではない」
「そうあれこれ急かすなよ、言われなくてもやるさ。このままじゃ便所でズボンも下ろせやしねぇからな」
ゴキゴキ、ボキボキと腕の中で
ともすれば負傷した時の倍は強烈な再生痛が収まった頃合、ぐっぱぐっぱと手を握って開いて具合を確かめる。
はい復活。なんなら超回復で一層筋力が増したかもな。
「……相変わらず呆れる再生力だ。宇宙人か貴様」
「せめてエイリアンと呼んでくれ。その方が
「どっちも同じではないか」
「これだから素人は」
俺が
心臓さえ動いていれば、いかなるダメージも立ち所に回復できる生命力。現に昔、頭が半分潰れた時も数秒で治った。
ただその代わり、燃費が悪い甲型の中でも更にエネルギー消費量が
「
受け取ったアルミパウチを剥き、やたら綺麗な長方形に成形された粘土質の塊を食らう。
表面はわずかに弾力を帯びているが、中はむっちり重い。
口に入れると不快な異物感が舌を圧迫し、噛もうとしても歯に纏わりつくだけで溶けることも砕けることもない。唾液をいくら混ぜても粘ついた塊は喉に張り付き、飲み込むたび胃にずっしりと沈む。
味はほとんどなく、嫌な油臭さとほのかな苦みが鼻の奥に広がるだけ。
とどのつまり──とんでもなく不味い。
まあ、そりゃ確かに、クリーチャーの肉と比べれば幾分マシではあるが。
「さて、と。どーすっかな」
消化器官を変異させた状態であれば、俺は食ったものを即座に栄養へと変えられる。
左腕の再生で消耗した分の補充を済ませたのち、木陰に背を預けながら溜息を吐いた。
「仕掛けてきたのは『カーミラ』だ。さっきのは血の塊だな」
すんすんと左腕の着弾点を
「……ああ、ヤツか。ハラジュクゲートでもたまに出くわす」
「割と有名どころだからな」
カーミラ。十九世紀に出版された同名の怪奇小説に登場する女吸血鬼を原型とした
自身の血液を自在に操ることが可能で、弾として飛ばしたり空を飛ぶための翼に変えたりと、そのバリエーションは実に多彩。
あと超絶オンチ。歌う姿を見る機会が今まで何度かあったが、アレは単なる騒音公害だ。どっかのガキ大将のリサイタル並み。
他にも細かく深掘りすると、小説で書かれている怪物象とは一致しない部分が目立つ。実はちゃんと読んだことないけど。
恐らく旧時代では様々な作品群にオマージュで引っ張り出され、その結果として大衆の抱くイメージに脚色が入りまくったのだろう。
カーミラに限らず、こうした事例は少なくない。
「どうする気だ。正面きって戦うなら造作もないが、この状況では厄介だぞ」
「どーすっかねぇ。作戦タイムを
「何故だ」
何故って、そりゃあ。
「もうそこに居るからな。ご本人が」
〈はぁい、素敵な銀髪のお嬢さん〉
葉が一枚もついていない石造りの枝に腰掛ける、裸体に薄い布を纏っただけの
反射的に銃口を向けた
「いつの間に……!」
「俺が一回目に「どーすっかな」って言ったあたり」
「早く教えろ!」
「ごめんなソーリー」
頭上から降り注ぐ黒い血の散弾を木陰に隠れて防ぐと、代わりに直撃を受けた
ともあれ、さっさと済ませなければ一帯丸裸にされて目印の番号札までオシャカになりかねない。
「どーすっかな」
…………。
よし。あの手で行こう。
「
無闇な応戦は悪手。つーか弾の無駄。
ここはひとつ、友好的にコトを運ぼう。
「おーい」
あえて無防備に姿を見せつつ、両手を肩の高さに上げて戦意が無いことをアピール。
なまじ知能があるからこそ、そんな俺の行動が理解できずに面食らったカーミラへと声をかける。
そして。服の裾を引っ張り、首筋を
「吸っていいぞ。ほら、おいで」
〈!〉
銃撃への確実な対応が可能な間合いを保っていたカーミラが、その言葉に目の色を変えて凄まじい速さで突っ込んできた。
テキトーに流し読みした小説のカーミラは
あるいは俺が若い女のカタチをしたクリーチャーばかり食ってるから、その臭いが知らず知らず染みついているのかもしれない。
どっちでもいいが好都合。
ひらひら飛び回る蚊トンボは、銃で撃ち落とすよりエサで
〈あはァッ! いただきまぁすッ!!〉
俺に抱きつき、首筋へと牙を立てるカーミラ。
そのタイミングで再び
身体能力よりも異能に特化したタイプのクリーチャーであるコイツに、この拘束から抜け出せるだけの
〈ふぃっ!? ふぅ、ふは、ふわっ!!〉
暴れるカーミラの背中に爪をあてがい、ゆっくりと肉を
そうすることで更に激しく暴れ始め、暴れれば暴れるほど余計に深く、俺の指が
〈──ッッ!! ッッッッ!!〉
背中の肉を半分ほどめくった頃合、カーミラが身に纏う薄っぺらい布を噛みちぎり、未だ
コイツ自身の血と同じ、腐った果実の風味。
「じゃあこっちも、いただきまァす」
ぼり、と音を立て、肩口の肉と骨を丸ごと
「まっず」
ちょっと
甘いのに苦い。ざらついた喉越しがこびりついて離れない。
ここまで不味いと、もう芸術だな。
「おェ……」
最後に首を噛みちぎり、事切れる間際に投げ捨てる。
白い地面を転がったカーミラは、程なく肉も骨も腐り落ち、やがて元のカタチすら分からなくなった。
「あー気持ち悪、うがいしてェ……片付いたことだし、さっさと行くか」
「その前に
ここが石造りの森モドキで良かった。
草木
「一発足りん」
「あァ? もっとよく探せよ、消えてなくなるようなモンじゃねェだろ」
「どこにも落ちていないのだから仕方あるまい」
数分探し回った結果、
よくある話だ。
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