第15話 下層
背筋を引っ掻くピリピリとした痺れ。水中に沈められたかのような圧迫感。
荷物に入れてあるエーテル測定機で具体的な数値を確かめるまでもない。
「今度こそ下層だな」
「ああ」
目的地として思い描いていたものと寸分
まあ、こう見事に殺風景だと逆に印象的か。
「『
「はくしゃくりん」
「……白い石の林、な」
「おおっ」
さっき
「闇雲に歩き回るなよ。しらみ潰しでゴールに辿り着くのは、まず不可能だぞ」
大方ブレードの持ち主も迷い果てた挙げ句に強敵とエンカウントし、あえなく命を落としたのだろう。
無数の
「案内するからキッチリついてこいよ、はぐれても迷子センターは無いんだ。ああ、いい年こいて店内放送で名前垂れ流されて恥かかずに済むのは利点か?」
「私はまだ二十五だ」
俺のひとつ下。
普通にいい年だろ。
「四捨五入したらギリ
蹴るな蹴るな、
「……そもそも、こんな目印も何も見当たらん似たような風景ばかりの
つまり
もっとも、分かるからこそショートカットに使ったワケだが。
「そこと、あれと……あと、お前の後ろの木にも赤い紐が巻いてあるだろ。くっついてる布切れの番号を教えてくれ」
怪訝そうに首を傾げながらも、ひとつずつ歩み寄って読み上げる
その三点を中心に
「あっちだな。確か青の八十八番地点あたりだった」
紐の色と番号札によるマーキング。
目印が無いなら作ればいい。先人たちの遺した、地味だけれど有難い恩恵だ。
視界が開けているということは、俺たちの姿も周りから丸見えということになる。
「──おい! こいつらはなんだ!」
二十八、二十九、三十。
こっちが数えてた通りにワンマグ撃ち尽くした
すでに十体以上を仕留めたにも
異様に濃い眉毛と妙に不快感をもよおす顔立ちが特徴的な中年男性のカタチをした、仲間が撃たれようと自分が撃たれようと表情ひとつ動かさず、ただただ機械的に無機質に駆け寄ってくる気味の悪い連中。
「『ディスマン』だ。女を優先的に襲う」
原型となったものは、国や地域を問わず同時期に全く同じ容姿の男が数千人を超える者たちの夢に現れたという、西暦二〇〇〇年代に広まった都市伝説。
後年、単なる一個人の作り話であったことが明らかになっているが、クリーチャーとは人間の恐怖や畏怖に基づく記憶をエーテルが取り込み、似姿を映した存在らしいからな。このホラ話が八方へと伝わる間についた様々な
「単体の脅威は
「こんな奴等、弾の無駄遣いだ! さっさとそいつを片付けて貴様が始末しろ!」
簡単に言ってくれる。
こっちもこっちで面倒な相手だってのに。
〈けぇひひひひひひひひひ〉
耳障りな笑い声と共にバカでかい肉切り包丁を振り回す、太ったピエロ。
通称『ジェスター』。
「チッ」
硬化させた指先で喉笛を
見た目の割に素早く、見た目通りに
「おい! いいのか、このままだと私が慰み者にされるぞ! そういう趣味か貴様!」
ギャーギャーやかましいな、まったく。
分かった分かった、すぐ済ませる。せっかちな女め。
〈ひひぇほほほほほっ!〉
斜めに振り下ろされた肉切り包丁の刃を掴んで止める。
見るからに
「ナマクラが」
分厚い刃を握り潰し、粉々に砕く。
ああ、手が
「死ね」
さっきまでより深く踏み込み、五爪を
四メートルにも届こう巨体を腰から上下に断ち、次いで手刀を構え、頭から胸元にかけてを左右に割った。
「ああくそ、きったねェな」
「クリーチャーの返り血など、いつも浴びているだろうが」
この
俺にも相手を選ぶ権利くらいあるんだよ。
「見るからに不衛生なデブピエロの体液なんざ一滴も浴びたくねぇ」
「女のゾンビとて似たようなものではないか。何が違う」
「気分的には何もかもだな」
そもそもディスマン程度のクリーチャー、お前一人でどうにでもできただろ。
そう言葉終わりに付け加えると、真紅の瞳が更に不機嫌を
「私をもっと大事に扱え。なんだと思ってるんだ」
何って、そりゃあ。
「お姫様?」
「…………んふふふふっ」
一気に機嫌良くなったよ。ちょっろ。
根が単純で助かる。思えばコイツが日を
だいたい五年くらい前の話か。あの時ばかりは二日くらい口きこうとしなかったっけ。
まあ、三日目には三人で食卓囲むようになったが。
「お。色が変わったな」
なんとはなし思い出を振り返っていたところ、白石の大樹に巻かれた紐が赤から青へと移り変わる。
ブレードの
「
硬質化させたままだった左前腕で、側頭部を
「
その四半秒後、強烈な衝撃が左腕から全身を突き抜け、見た目こそ細めながらも凝縮された筋骨により体重二〇〇キロ近い身体が丸ごとノックバック。
ブレーキに使った爪先を数メートル引きずり、二歩三歩たたらを踏む。
「ってぇ……」
呟きつつ、だらりと独りでに垂れ下がった左腕を見下ろす。
肘から先があらぬ方へと折れ曲がり、使い物にならなくなっていた。
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