第12話 口裂け女
トーキョーに八つ点在する
西暦二〇七〇年現在、二百人前後が登録されている
その理由は様々である。
エーテルと混ざり合うことによって半端な
あとは、ちょっとした風聞の問題だったり。
「貴様が居るからだろう『ヒト喰い』」
「大した推理だな名探偵。ついでにハラジュクゲートでも
「私ではない。ジルが見境なく放電しまくるせいだ」
容易に情景が想像できて困る。
北欧系の透明感あふれる
「いい加減どうにかしろ。私では手に負えん」
「難しいな。ピンを抜いた手榴弾に爆発するなって方が無茶だろ」
大人しくさせたければ、全身拘束して純水で満たしたプールにでも沈めるしかない。それで電撃は封じられる。
……普通に力尽くで脱出しそうだな。ジルが厄介なのは発電能力だけじゃないし。
「アイツの半生を思えば致し方ない話でもある。大目に見てやれ」
「フン……貴様はジルに甘い。連れてきた時からずっとだ」
そう言って乱暴にマガジンを
「私の扱いは雑なくせに」
五つも歳下の妹分と自分を比較して
薄汚い虹色の膜が張った石造りの
座標が繫がっていた先は、
「ここは知らんな。随分と辛気くさい
「ヨツヤは九割方こんなもんだぞ」
旧時代の怪談や都市伝説を
例えば、あっちの街灯の下に立ってるデカいマスクをした
「幸先いいな。アイツ面白れぇんだよ」
通称『スラッシャー』。ポマードレディとかキャンディちゃんとか口裂け女とか、他にも複数の呼称を持つ。
ある程度まで近付くと向こうから話し掛けてきて、その質問に対する返答次第で行動と存在強度を変化させるクリーチャー。
本来は
低層に現れる最下級の化け物だと油断して殺された
「チッ」
それを制し、銃口を下げさせた。
「待て。ちょっとからかってくる」
「……悪趣味め」
邪魔なバックパックを下ろし、早足で歩み寄る。
青白い街灯がアスファルトを照らす光円の内側に入った頃合、明後日の方を見ていたスラッシャーは奇怪な動きで俺へと向き直り、唯一マスクで覆われていない血走った眼差しを突き付けてきた。
そして、やや発音のおかしい声で、こう尋ねられる。
〈わタし、綺麗?〉
肯定的に答えるとマスクを剥ぎ取り、素顔を
否定的に答えると金切り声を上げて発狂し、どこに隠し持ってたか問いただしたくなるサイズの大鎌で斬り刻んでくる。
何も答えなかったり関係無い話題で返した場合、鉄骨をヘシ折る腕力で首を絞めてくる。
コイツと
特に「お前の顔をそうしたのは俺だ」とか適当こいた時のリアクションは最高だった。
さて、今回はどうするかな。
アレで行ってみるか。
「ああ美人だ。世が世ならミス・ユニバースの書類審査くらいは通るんじゃね?」
本音を言うとあまり好みじゃないが、まずは褒める。
するとスラッシャーの瞳孔がキュッと
〈こレでもォォォォ!?〉
耳元まで裂けた口を限界まで開け、喉が潰れんばかりに
合わせて汚らしい
その手首を掴み、
「──それでもォ」
〈ひッ……!?〉
パキパキと音を立てて変異する
三層の牙が並んだ口を、スラッシャーの倍以上も大きく開け放つ。
「アンタ、おちょぼ口だなァ? そんだけしか開けらんねェのかァ?」
怒りと憎悪はどこへやら、一転して恐怖に引きつる表情。
人間の
「んあぁ──んぐぅ」
髪の毛を喉に詰まらせたくはないため、怯えきった顔面だけを綺麗に
骨も歯も肉も目玉も一緒くたに
「さァて」
仰向けに倒れて
まだ生きている。厚手のコートとその下に着込んだ衣服を纏めて掴み、引き裂いた。
首から下は、意外なほど綺麗。
「れろォ」
胸や腹などの
ボタボタと黒い血をこぼしながら味わい、飲み込み、真っ赤な星だけが無数に浮かぶ夜空を
「まっず」
食ってるうちスラッシャーが完全に動かなくなり、あっという間に骨肉が腐り始めたため、
変異させたままの口元をぬぐいつつ
「
「自分の特性を活かしてると言ってもらいたいもんだな」
因子活性時、俺が特に
有機物なら大抵なんだって食えるし、毒だろうと酸だろうと栄養にできる。そうでもなければクリーチャーの肉など口に入れたら腹を壊すどころでは済まない。
ただし味覚は変わらない。まったく。
お陰で不味いもんは不味い。すこぶる。
「しかも、よりによって女の姿をしたやつだけが捕食対象ときた」
「ひとつ訂正、若い女な。ガキと年寄りは食う気しねぇ」
「どちらにせよ悪趣味だ」
これみよがしな溜息。
次いで、じっとこっちを見てくる真紅の瞳。
どったのセンセー。
「変異させた俺のツラなんぞ拝んだって、食欲なくすだけだろ」
「いや?」
帯に何本か挟んであった
「この世の誰より見てきた貴様の顔だ。たとえどうなろうと、気味が悪いとは思わん」
ああ、そう。
人間なんでも慣れるもんだな。
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