第6話 異形因子


「ははははっ、くすぐってぇなオイ」


 トーキョーに広く出回っている安物のマシンガンで腹回りを中心に撃ちまくられ、こそばゆくて思わず笑ってしまう。


「弾が遅い。火薬をケチった減装弾とは舐められたものだな」


 隣では凶三きょうぞうが空中で斬り落とした数十発の弾丸を、足元に横一列で並べていた。

 ドアも静かに開け閉めできないくせ、無駄なところで器用。


「銃が、効かねぇ……まさか異形因子保持者スキルユーザーか!?」

「あァ?」


 まさかも何も、他に同じような真似できる人種が存在するなら、むしろ紹介していただきたいもんだね。

 マジモンのバケモンだろ。サイン欲しいわ。


「なんで異形因子保持者スキルユーザーが……ッ!? こ、こいつら『ヒト喰い』と『辻斬り』だ!」


 集会か何かの最中さいちゅうだったのか、都合良く屋内の全員が集まっていた大部屋に飛び込み、およそ三十秒。

 ようやく俺たちの素性に気付いたらしく、幹部格と思しき男が声を張り上げる。


 つーか。


「お前、今は『辻斬り』なんて呼ばれてんのか? 完全に通り魔扱いじゃねぇかよ」

「貴様など『ヒト喰い』ではないか。私のことを笑えた立場か」


 正直どっちもどっち。どんぐりの背比べ。

 少なくとも自分で名乗る気にはなれないレベル。そういう年頃はとっくに卒業した。


 もっとも、だいぶ前に呼ばれてた『女衒ぜげん』とか『牝狗めすいぬ』とかに比べたら、お互い少しはマシか。

 アレは酷すぎた。もはや通り名と言うか単なる悪口じゃねーかよ。


「くそっ、でカチコミかけてきやがった……ビビってんじゃねぇぞ、テメェら! 異形因子保持者スキルユーザーがなんだってんだ、相手はたった二人だろうが!」


 二人ね。戦力としての数え方を根本的に間違ってるな。


 異形因子保持者スキルユーザーの平均戦闘能力はクリーチャーの存在強度を示す等級で言うところのデルタ級下位、分かりやすく大雑把おおざっぱに例えるなら重戦車あたりに匹敵する。

 そして俺も凶三きょうぞうも、平均値やら中央値など大きく超えている。

 最低限タイマン張りたきゃ列車砲でも引っ張ってこい。実物なんか見たことないけど。


「アレを使え! 囲んで叩け!」

「……?」


 なんだ、こいつら。

 お揃いでゴツい注射器なんか出して、こんな時にヤクでもキめる気──


「ぐぅ、お、おおおおおおおおッッ!!」

「ぎぎぎぃ、ぎぃぃぃッ!! ぱわぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

「にたすにはご、にたすにはご、にたすにはごォォォォッ!」


 これはビックリ。毒々しい蛍光色の液体を首に打ったかと思えば、一斉にしやがった。

 全員、肉体の変異が大きい。俺と同じ甲型こうがたか。


 …………。


「妙だな」


 たとえ異形因子スキルを活性化させておらずとも、そいつが異形因子保持者スキルユーザーであるかどうかは近くで見れば大体分かる。なんなら異形因子保持者スキルユーザーは両耳にイヤーカフ型の目立つ認識票タグを付けてるから、そういう意味でも一目瞭然だ。

 一人二人ならともかく、この場の全員を見過ごすほどボケちゃいないぞ。


 ──そもそも異形因子保持者スキルユーザーだとしたら、男しか居ないことも引っかかる。


 染色体だかホルモンバランスだか体構造だかの関係で、異形因子スキル定着の成功率は男より女の方が遙かに高い。

 必然的に希少となる男の異形因子保持者スキルユーザーをここまでの頭数、たかがチンピラ集団に揃えられるワケがない。わざわざ男だけで揃える理由も思いつかない。


 となると、やはりあの注射器が怪しい。

 妙なもん打ちやがって。閉鎖空間のトーキョーは違法薬物に死ぬほど厳しいぞ。


「……ま、とりあえず叩きのめすか」

「了」


 ちょうど腹が膨れてて良かった。

 男の肉なんざ食欲すら湧かねぇ。


「知ってると思うが、甲型はタフだぞ。やれるか?」

「誰にものを言っている。私とライキリに斬れないものなど、あんまりない」


 腰を深く落とし、素手より二回りデカい強化外骨格に合わせてサイズ調整された柄を握る凶三きょうぞう

 あるにはあるのか。斬れないもの。






 異形因子スキルとは、元々は異界ダンジョン内に充満したエーテルが引き起こす致命的な中毒症状への耐性を持たせるために研究されていたものだ。

 人間離れした戦闘能力の獲得はあくまで副次的効果に過ぎなかったのだが、今となってはそっちの方がメインとして扱われている。


 原材料はエーテルそのもの。特殊な精製をほどこし、液化させたエーテルに含まれる成分のひとつこそが異形因子スキル

 その液化エーテルに全身で浸かり、十二時間かけて細胞へと定着させる行為を異形因子スキル移植手術と呼ぶ。


 多少の個人差こそあるが、手術中は絶え間なく激痛に襲われ、それでショック死する奴も多い。

 たとえショック死をまぬがれても、異形因子スキルが定着しなければ急激な中毒症状で全身に腫瘍と血栓ができて死ぬ。


 ──そんな命懸けの博打、大抵の奴にとって人生で一番長い半日間を越えてようやく手に入る異形因子チカラは、おおむね『甲型』と『乙型』に分類される。


 俺の場合は甲型。因子活性時は外見が大きく変異し、それに伴い膂力りょりょくや肉体強度が跳ね上がるタイプ。

 凶三きょうぞうは乙型。因子活性に際した外見的な変化は少なく、甲型と比べて身体能力も低いケースが多いけれど、代わりに超能力じみた独自のを発現するタイプ。


 あくまで出力結果にもとづいた大雑把な区分であることに加え、ごく稀に変異を起こす奴も居る。

 かなりのレアケースゆえ、今日こんにちに至るまで実物は一人しか知らないが。


 閑話休題。


「ぎがぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 勢い良く振りかぶられた、丸太のように肥大化した腕。

 鈍い風切り音と共に迫るテレフォンパンチを、手首を掴んで受け止める。


「……ん?」


 首を捻る。

 脳裏に浮かんだ疑問を確かめるべく、受け止めた拳を離す。


「もう一度」

「るうぅぅううううッッ!」


 より破壊力を求めてか、十指を組んで打ち下ろされるダブルスレッジハンマー。

 半歩だけ身を引き、打点に合わせる形でショートアッパーをぶつける。


「があぁッッ!?」


 一瞬の拮抗きっこうさえ挟まず相手側の両腕が肩まで砕け、滅茶苦茶に折れ曲がった。


「んん?」


 再び首を捻り、凶三きょうぞうを振り返った。


疾疾疾疾シシシシィッ」


 電磁石の斥力せきりょくによる抜刀、斬撃、残心、納刀。

 そのルーティンを一秒間に四回繰り返し、間合いに入ったチンピラたちの異形化した手足を断ち、瞬く間に無力化。


 不調気味なブレードを気遣ってか、いつもより剣速が遅い。

 ま、セーブしてさえアレだ。そりゃガタもくるわな。


 …………。

 そんなことより、だ。


「どうなってやがる」


 疑問に意識を向けているうち、気付けばコトは終わっていた。

 死屍累々ししるいるいの有様となった大部屋を見渡す。


 俺が十人。凶三きょうぞうが十二人。

 声にならない苦悶くもんと共に床を這いずる、計二十二人のチンピラたち。


異形因子保持者スキルユーザーにしちゃ、いくらなんでも弱すぎるだろ」


 朝飯に食ったゾンビナース、昼飯のテケテケどもと大差ないレベル。下手したらそれ以下。

 異形因子スキルを活性化させるまでもなかった。いっそ心配になる手応えの無さだ。

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