第4話、初体験
次の日は素晴らしい快晴だった。
カズシは昼過ぎに車で出て、ちょっと遠めのIKEAまでちょっとした収納箱を買いに出て、そのまま以前マサコとよく行っていたコストコにより、トルティーヤの大袋をかって、最後はフードコートでプルコギペイクを頬張ったりと、風邪でマサコはいないなか、一人でもかなり充実した1日をおくり、自宅には夜9時過ぎに帰宅した。
「おぉ!いいなぁ~」
カズシの自宅前の道に車が2台停まっていた。1台は「レクサス」だった。
カズシは車好きで、特に国産の高級車が好きだ。目の前に停まっている「レクサス」は将来自分が乗りたい車の1台だ。
その横には、(久しぶりに見たな)と心で思った、オデッセイが1台停まっていた。
(この2台、ここでははじめて見たな。住民の?)
駐車場はマンションのスグ横にある。車を入れて降りるとスグにマンションの二階に上がる階段は目の前だ。
「(うわっ!)…あ、こんばんは」
階段を上ろうとした時、目の前に二人の男女がいた。
男は20代前半くらいで体形は小太り、胴回りをパンパンにしたチェックのシャツをスラックスの紺のパンツにしっかりと入れている。一重の切れ長の目で、よほど不健康な生活をしているのか、それとも体質か顔中には吹き出物がたくさん出来ている。
もう一人の女は対照的に不健康極まりない雰囲気でガリガリに痩せていて、夜なのにサングラスをかけ、その黒いレンズの下から頬骨が極端に突起している。ロングヘアーもただ伸ばし放しのでバッサバサだ。白い花柄のロングスカートを履いているが、所々に夜でもはっきりと分かるような何かの染みが付いている。日中街中で見ても異様な風体なので、田舎の静寂な夜、ふいに現れた女を前に絶叫を出さなかっただけ金メダルものだった。
女の方は30代後半の感じで、親子ともカップルとも見えない二人組みだ。異様なのは、カズシの目に入る前からその場にじっと佇んでいた感じで、ちょうど青みがかっ
た階段のライトに会話もなくぼんやりと照らされていた事だ。
二人はカズシが挨拶しても、目線をこちらに向けただけでほぼ無反応で並んで突っ立っていた。
(なんだ、気持ち悪りぃ)
カズシはそのまま階段を上った。
一度チラッと振り返ると、二人は首から下は固まったままで、顔だけをカズシに向けていた。
(うえっ!)
部屋に入っても不快感は収まらない。
「あいつ等、マジで気持ち悪かったなー。……ん?あれ?オレ閉めて行ったっけ?」
部屋のカーテンがしっかりと閉まっている。
「あんなに晴れてたから、全開で行ったハズだけどな…」
カズシはカーテンを一枚開けた。外には2台、レクサス・オデッセイが見える。
と、カーテンを開けると同時に、またアノ音だ。
アノ音が扉の方から微かに聞こえ出した。
―カタカタカタカタ…カタカタカタ……カタカタカタカタカタ………―
「またかよ…建付けが絶対におかしいわ。明日、大家さんに言おう」
カズシはテレビを付け、音量をいつもより大きくした。
布団に入ったのは午前1時頃。外は風も強くなってきて、窓ガラスがカタカタ揺れる音がする。そのお陰で、扉の中からの微かな音は聞こえずに済んだ。
(今日は風の音のお陰で、すんなり寝れそうだな)
カーテンはまだ半分開いている。外から入ってくる月明かりと、小さいオレンジの電球の明かりで部屋の中はぼんやりと明るかった。
カズシはすぐに眠りに落ちそうだった。
-カタカタカタカタ………ガタ!!!!ガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!-
「うわーっ!」
あの音は、急に大きな音へと変わり出した。
カズシは飛び起き音の元凶、扉の方を見た。
-その瞬間―
“シャー!!!!”
突然、背にした窓の半分のカーテンが勢いよく乱暴に閉まった。
「うわーっ!誰だ!」
振り返ってみるが誰も居ない。勝手にカーテンが閉まっている。カズシは咄嗟にカーテンの方に向かった。
「誰かいるのか!!」
そういって、カーテンに手が触れそうになった瞬間、カズシは立ったままの状態で初めて金縛りにあった。
(え!…か、体が動かない!)
と、その瞬間カズシ頭の中に、早口でごにょごにょと微かに女の声が聞こえてきた。
(ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ)
(何だよ!この声!)
全く動かない体。その間も早口でヒステリック、攻撃的口調でダメと連呼する女の声が頭の中に響き渡る。胃酸が逆流してきて苦悶の状態が数秒続いた。体感では何分も耐えている様な感覚だった。
スマホが鳴った。
その瞬間に金縛りが解け、あの頭に響く声も止んだ。金縛りの解けたカズシだが、その場から一歩も動く事は出来ない。目の前には手で触れる位置にカーテンがある。
恐怖と身体的苦悶の状態の中、無意識にカズシの手は自然とカーテンの方に伸びた。
何かを知りたいと思ったのだ。部屋の中に響く音の原因がそこにあると思ったのだ。
部屋ではスマホの着信音と、ガタガタと得体の知れない音が鳴り響いている。
(…大丈夫だ…大丈夫…何も無い)
カズシは恐怖心を振り払う様に、勢いよくカーテンを半分開けた。
“シャー!!!!”
部屋と外、窓ガラスを挟んでカズシの目に入ってきたモノは、
カズシの視線より低くい位置に、背の低い中年のハゲた男の頭と、下から上目遣いで覗き込む感情ゼロの視線だった。
その男は鼻先を窓ガラスにくっ付けて、ピタリと窓ガラスに張り付いていた。
その体は青くぼんやりと透けていて、男の体越しに、レクサスとオデッセイが見えた。
カズシがその男と視線があった瞬間、耳をつんざく様な声で、
「ギャ―――――――――――――――――――――――――――――――!」
女の悲鳴が聞こえた。
カズシは数センチ先の透けた体の男と、女の悲鳴に腰が抜け、そのまま気絶してしまった。
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