第4話
昼休み、朝倉は校内にあった自販機コーナーに寄っていた。水筒のお茶を午前中にも全部飲み干してしまい、もう一本を補充しようとやって来ていた。
自販機の前に来るとそこには、麦茶が売り切れていて、水かジュースしかなかった。
「麦茶は売っていないのか……」
緑茶で午後を乗り越えるかと思い、持ってきた小銭を入れて一本を購入した。取り出してさっそく、ふたを開けて飲みはじめた。
しかしこの場所は朝倉ひとりしかいなかった。教室という集団の中に長くいたせいか、この静かなところが心地良かった。朝倉はもう少し居たいと思い、そのまま自販機近くに設置してあるベンチに腰かけた。
すると、こちらに向かって来る足音が聞こえた。誰かが買いに来たのだろうかと思い、朝倉はそろそろ教室へ戻ろうと思い、ベンチから立ち上がる準備に入る、相手はやってきた。
「あっ……」
そこに居たのは柳川だった。朝倉は思わず声にした。柳川も朝倉に出くわすなんて思わなかったらしく、少し動揺しているのが見られた。
朝倉はそこから動かず座り続けていた。すぐに立ち上がればいいのだが、もう少しここで過ごしたくなった。そして目を閉じた。
小銭が一枚ずつ自販機の中に入っていく。そしてボタンを押した瞬間、出口へ向けてペットボトルが大きな音を立てて落ちた。そろそろ用を済ませてここから去るのかと思えば、その場でキャップを開けて彼女も飲みはじめた。ゴクッゴクッと喉を通る様子が朝倉の耳に伝わる。いったいどれだけ喉が渇いていたのか、長時間水を取っていなかったのだろう。
そしてキャップを閉める。ようやく戻るみたいだったのだがどうやら違った。
「朝倉だっけ……アンタ生意気ね」
朝倉はまぶたを閉じたまま聞いていた。どうも柳川はこちらを見ている。また校舎裏にでも今から呼ばれるのだろうか。彼女の足がその場から動くことはない。そして続けた。
「そう、私にあんな痛い目にあったのに……気にしないのね」
「……」
「そう……」
柳川はなにかぶつぶつ言っていたが、後は何事もなく去って行った。
念の為、朝倉は数分してからまぶたをゆっくりと開けた。もちろんそこにはもう居ない。今思うと彼女がどんな表情をしていたのか見たかった気もする。
朝倉は用がないが自販機の前にふたたび立つ、それは柳川が何を買っていったのか気になったから。すると自販機の小銭口になにかを見つけた。朝倉はしゃがんで中をのぞく、そこには一枚の百円玉が残されていた。誰かが取り忘れていたのか、この自販機は自分が利用した所だった。自分の手持ちの金とさっき買った緑茶の値段を計算して確かめる。すると自分の取り忘れた百円では無い事がわかった。じゃあこの小銭はいったい……
「まさか、柳川が忘れて行ったのか?」
だとしたら、朝倉は見ないふりをしたい所でどうしようかと悩んでしまった。このまま放置しても問題ないだろう。もしかしたら柳川が取りにくるか、それとも誰かが代わりに見つけて先生にでも届けるだろう。こんな事で悩む必要はない。
朝倉は見なかった事にして触れず放置した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます