第3話

 月曜日、朝食を済ませた朝倉はカバンを持って玄関に向かう。すると母も見送るために来ていた。


「誠一、忘れ物はないわね」

「うん、ないよ」


 母は玄関の扉を開けて言った。


「しかし今日は良い天気ねぇ、家族全員で今からでもお出かけしたい気分だわ」


 機嫌が良い母、今度は朝倉のメガネについても聞いていた。


「そういえばメガネ、大丈夫かしら?」


 予備にあったもう一つのメガネをかけていた。前のメガネは柳川の平手でフレームが曲がってしまった。自分の手で治してみたが、結局はダメだった。このメガネは気に入っていたのだが修理に出すことにした。


「形は一緒だから大丈夫」

「そう、なら良かったわ」


 別に朝倉は視力が低いわけではない。本来ならメガネは必要なく裸眼でも大丈夫なのだが、ただ単におしゃれとしてつけていた。


「行ってきます!」


 と、朝倉は走って自宅を後にした。


 自宅から学校までは電車移動だった。朝夕はもちろん混雑はしているが、よそからしたらそれ程ではないらしい。朝倉はたまたま空いていた席に座る。こないだは全部の席が埋まっていて、朝倉は休むことが出来なかった。出来ればあの日に空いて欲しかったのだが。


 学校に着き教室へ入ると、自分がいる席の後ろでは添田と池畑創成(いけはたそうせい)がふたり集まっていた。


「おはよう朝倉、調子はどうだ?」


 添田は先週の事を聞いて朝倉は「ああ、大丈夫だよ」と返した。

するとあの時、居なかったはずの池畑が、その件について聞いてきた。


「朝倉、柳川にボコボコにされたんだって」

「ええ、なんで知っている?」

「ちょうど今、添田から聞いたから」

「そう……」


 朝倉はカバンを机の横に掛けて席に着く。この事がほかの生徒に知られているのか疑った。あまり公にしたくはないから。まぁ、あそこに居たのは自分と柳川、そして三島……あまり考えたくはないな、口が軽そうなあいつの事については……添田はその様子の朝倉を見かけて「どうした?」と、聞いてきた。


「別に、なんでもない……」


 と、気休めに水筒を飲みはじめた。初っ端から悩みを作るのは避けたい。居心地が悪いからだ。

 いっときすると柳川が教室に入ってきた。ほかの女子達が自然と集まって話しかけている。彼女は穏やかに一人ひとりに返していた。

自分の席に座ると、奈々が近づいていた。


「愛梨さん、今日もお綺麗ですねー」


 三島は腰をかがめて、柳川の顔をのぞきはじめた。柳川もその視線が目障りそうにしていた。


「奈々、顔がうるさいわ」


 それでも三島は褒められたように受け取り喜んでいた。さすがに柳川はあきらめたらしく、それ以上注意することはなく無視するくらいだった。

 朝倉は耳だけでその様子を聞いていた。柳川とは関りたいとは思わない。頬が痛み出しそうだから。まあ、幼稚園の時は一緒に遊んでいた頃の話だが。


 小学校から柳川は家の都合で引っ越しとなり、小学校からは別々となった。朝倉はもう過去の事のように過ごし中学を卒業した。そして忘れた頃、高校から一緒になる事を知ったのは入学式だった。その時はクラスが別だったが彼女の名前が呼ばれた。気のせいかとふとその目で確認した。そこに居たのは自分が知っている柳川だった。

 彼女は肩まで髪が長くなり、容赦も立派なお姉さんへと成長していた。どこか頼りがいもある。


 まぁ、朝倉自身が彼女対して意地悪をする事が多かったから、あまりいい印象はないだろう。

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