不思議な先生がいた不思議な学校

リュウ

第1話 不思議な先生がいた不思議な学校

 僕は、東京に来ていた。

 大学を卒業して、東京に出てきていた。

 故郷にいい就職先が無いわけじゃない。

 なるべく時間が使える就職先を選んだんだ。

 それには、目的がある。


 絵が描きたかったんだ。

 美大へ行くってのもあったけど、周りの意見に負けた。

 絵なんか描いたって、食べていけない。

 結局、そんな理由だ。


 確かにそんなことは、僕だって気付いていた。

 隣の家のお兄さんも美術系に進んだけど、数年後には戻ってきて就職してた。

 難しいのは、自分でもわかっているんだ。

 だから、食べるのには困らない技術を勉強した。


 これで、やっと好きなことができる。


 僕が選んだのは、四谷にある専門学校だった。

 ここの先生が好きだった。

 一度、会ってみたかった。

 坂の上にある白い洋風の建物だった。

 広いバルコニーがあって、そこで休むことが出来た。

 僕の故郷にはない、とてもお洒落なところだった。


 ここの先生は、少し変わり者だった。

 年は六十を超えていそうだけど、背筋がピンと伸びて細い体。

 キャップに大きめのシャツ、

 大きめのサングラス、

 スリムのパンツに白のコンバース。

 もちろん、ハイバスだ。

 それが、とてもカッコイイのだ。


 しゃべり方は、優しく少し女言葉だ。

 周りに女性が多いためかもしれない。


 生徒も色々で、年齢もバラバラ。

 女子八割ってところだろうか。

 服装もお洒落で、他のファッション専門学校の掛け持ちの人もいた。

 ただ、絵が好きで、絵が売れて有名になれたらと胸を膨らませていた。

 

 そう、みんな夢を持っていた。

 

 生徒の中には、美大生かわからないが、自信家も含まれていた。

「うちの生徒は、世界一デッサンが下手」が、先生の口癖だった。

 どの角度が立体的に見えてカッコイイかとモデルの周りを囲む。

 デッサンというよりクロッキーに近い。

 描き終わると、講評がある。


 それが、面白い。


 どこかの有名な画学生が、

「どうだ!うまいだろ!お前たちとは違うんだよ」って、

 言って描いた絵は、けなされる。


「お前のいいと思っているのは、根本的に違うのだ」と言っているようにだ。


 天狗の鼻が折れたように、元気がなくなっていく。


 辞める人もいたらしい。


 全くの否定はしない。


 常に、逃げ道をつくり、良い絵を描くヒントをくれる。 


 先生が「これは、Aだね」と言わせたいと頑張る人が生き残り、作家として名を残していた。


 それが、この学校から素晴らしい卒業生が出ている秘訣なのだろうか。


 残念なことに、もう、そんな先生は他界していまった。


 今でも、あの洋風の白い学校に行くと女子に囲まれ笑っている先生の姿を見れるような気がする。


 不思議な先生がいた不思議な学校。


 今も生徒の心に残り続けるだろう。

 僕もそんな人になりたいと思った。

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不思議な先生がいた不思議な学校 リュウ @ryu_labo

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