第4話 質疑応答の嵐

「おい。テメー何で約束を破ったんだよ!」


 明らかにガラの悪いその男性は声を荒げます。

 途端とたんに会場の空気がこおり付きました。

 男性は構わずに社長を責め立てます。

 

「ふざけんじゃねえぞ! うそつきやがって!」


 そこからも罵詈雑言ばりぞうごんあらしが続きます。

 男性の話の内容は、もうかるという話だったのに金が返って来ず、説明を求めて会社に乗り込んでも社長は出て来ず、必ず社長から連絡をさせるように会社の人間に伝えても一向に連絡が来なかった。

 という内容でした。

 社長はうつむきがちに消え入るような声で必死に応対します。


「それはその……ゴニョゴニョ」

 

 何を言っても言い訳でしかありませんし、男性は非常に感情的になっているため社長をののしるだけの時間が1分2分と続きます。

 そして同じことの繰り返しが続き、正直不毛なやり取りに終始していました。

 さすがにらちが明かなくなり、弁護士さんが間に入って男性を落ち着かせます。

 弁護士さんからの冷静な説明を受け、男性は不満ながらも言いたいことは言ったと、引き下がることとなりました。

 

 次に質疑応答に立ったのはどこかの企業の社長さんらしく、話す内容は理知的でしたが当然のようにその言葉にはトゲがあります。

 彼は社長のことを個人名で呼び捨てにしました。


「おい。〇〇。おまえ。どうせ財産隠しをしているんだろ? うまいことやったな? 今だってそうやって反省している素振そぶりを見せて、何とかこの場を乗り切ろうと考えているんだろう? 俺は色々と調べたんだよ。おまえと共謀きょうぼうしている奴がいるよな。財産をそっちの会社に隠してるんじゃないのか?」


 そうとがめられた社長はそんなことはないと否定します。

 すると質問者の怒りの矛先ほこさきは破産管財人の弁護士さんに向かいました。


「長い時間かけて資産をすべて明らかにするなんて、まどろっこしいことは必要ないと思いますけど? この〇〇に聞けばすぐに分かるでしょう? こいつが全部知っているんだから」


 しかし破産管財人はこの道のプロですから冷静です。

 社長への聞き取り調査は繰り返し行われているが、資金の流れについてはまだ全容が解明できていないため、現時点では軽々しく発言できない。

 もう少し時間が欲しい、と。

 そう言われては債権者として文句を言うだけ言ったら後は引き下がるか訴訟そしょうに持ち込むしか出来ることはありません。


 この後も色々な方が入れ替わり立ち代わり質問を行います。

 この集会に参加するために遠方から訪れた方もいて、どなたもやはり怒りに震えていました。

 しかし質疑応答の内容を見聞きしているうちに、僕の胸にはあきらめの感情がき上がってきます。


 まあ、やはり返金はまったく期待できないな。

 当然です。

 会社が倒産するくらいですから、資金なんて残っているはずがないんです。

 社長が巧妙こうみょうに資金隠しをしていて、それを破産管財人の方が見破って資金を割り出すというウルトラCを見せてくれない限り、お金は戻ってこないでしょう。

 そしてそれも望みはゼロに等しいです。


 時間はあっという間に2時間を経過しました。

 社長はすっかり憔悴しょうすいしきった様子ですが、腹の底ではどんなことを考えているのかはその見た目からは分かりません。

 こうして第1回の債権者集会は終了しました。

 次回、第2回は5カ月後の日程であると裁判官の方より知らされ、僕たちは会場を後にするのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る