第3話 現れた社長……そして怒号が渦巻いた

 債権者たちが息を飲んで見守る中、債権者集会が始まります。

 まず、この会の司会進行役である裁判官の方が3名ほど入場し、次に破産管財人である弁護士さん、そして……数人の会社役員たちと共に社長が現れました。

 ここにいる債権者たちが投資した金額を回収できなくなった最大の責任者である人物です。

 一瞬、会場は静まり返ります。

 

 社長は身をすくめるように小さく前かがみで歩き、机の後ろに立つと深々と頭を下げます。

 なかなか頭を上げることは出来ません。

 おそらく……債権者たちに顔を向けることが恐ろしいのでしょう。

 自分の責任とは言え、社長にとってはおそらく人生最大の危機に見舞われ、恐怖と失意で足がすくむ思いだったと思います。


 債権者と相対した彼らが全員着席すると、裁判官の方が債権者集会の開始を宣告します。

 まずは破産管財人の弁護士さんが事の経緯を説明します。

 会社が倒産するに至るまでの経緯、そしてこれから会社に残った資産をすべて調査して少しでも債権者の方々へ資金返還できるようするむねを弁護士の方は伝えました。


 この時に僕は知ったのですが、この破産管財人の弁護士の方は倒産した会社の社長を守るためにここにいるのではなく、あくまでも会社の残りの資産を明らかにして債権者たちに分配するための業務にいているのでした。

 なので身をたてにして会社を守ろうとかそういうことはなく、あくまでも自分の役割を果たすためにいるだけだという感じで、ドライな対応をされていました。


 この時点で僕は「まだ会社の資産を計算するところまで辿たどり着いていないのか」と思いました。

 会社倒産してから9カ月がっているのに、です。

 どうやら調査には長い時間が必要で、まだまだ先は長そうです。

 そして一通りの説明が終わると、いよいよ質疑応答の時間になります。

 これまで怒りを抑え、だまって説明を聞いていた債権者たちが立ち上がって、その口を開くときが来たのです。


「ご質問のある方は必ず挙手きょしゅをしてからご発言ください。ルールを守っていただけない場合はご退場いただくことになりますので、よろしくお願いいたします」


 司会進行役の裁判官の冷静な言葉の後、十数人の債権者の方が手を上げます。

 僕は静かにその行方ゆくえを見守りました。

 すると一番最初に威勢いせいよく手をげた男性が指名されます。


 実はこの会場に入っていた時から気になっていたのですが、1人だけ明らかに身なりやたたずまいの不穏ふおんな方がいたのです。

 何というか……反社会的な香りのする方でした。

 その男性が立ち上がり、質問のために前に出てマイクの前に立ちました。

 彼はマイクが音割れするような勢いで怒声どせいを響かせます。

 

「おい。テメー何で約束を破ったんだよ!」


 会場の空気が……こおり付きました。

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