第七章 縁
昔々、といっても今に近い昔、羅喉群憤餓主と呼ばれる神がいました。祟り神、災厄、魔王とも呼ばれるもので、厄除けのご利益があるとされています。人嫌い妖怪嫌いと言い伝えられ、金輪際誰にも心を開く事は無いと思われていました。
しかし、一人の龍巫によって、運命が回り始めようとしているのです。
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次の日の朝、翔烏は家の前で相も変わらず井戸端会議をしていた心見、言迷、みちこさんに昨日の出来事を話した。話している内に、どこからか他の妖怪達も現れた。
「オイ狐、仕事が出来たぞ良かったなァ。」
「君こそ顔が広いだろ?協力しておくれよ。」
みちこさんは考えている、というジェスチャーをしている。
「どうするつもりなの?」
「決まってンだろ?『合戦』するンだよ、昔みたいになァ、俺こう見えて『合戦』の生き残りなんだよ、役に立つぜェ?」
後からやって来た妖怪達は、何割かは手を振り、何割かは怯えている。
「当然鬼鳴様は俺らの話は聞かねェだろうから、龍巫様から吹っ掛けるンだ、この辺で暴れて被害が出るといけねェから、場所は『あの』あの世だ。」
心見の話を聞いていると、視界に羅喉様が映った。妖怪達も異様な気配に気が付いて、ざわついている。自分以外の誰かの前に現れたのは初めてだと翔烏は思った。
羅喉様はグルルッと不機嫌極まりなく唸った後、
「劣等種風情が……我らの部屋に踏み入るのか……!我らの…我らだけのもの…なのに……!」
「おう、久し振りだな鬼鳴様ァ、これも余計な命を奪わねェ為なんだ、どうか通しちゃくれねェか。」
心見は、いつもより険しい表情と声で告げた。
「私からもお願い。その、後でチョコレートとか石とかあげるからさ!」
羅喉様の表情は険しいままだったが、
「…しょうちゃんが…言うなら……認める……しょうちゃん……努々忘れるな……。」
フッと消え去り、異様な気配は無くなった。
「あーあ、相変わらずよく分かんねェ言葉話すなァ、心も読めねェし。」
「羅喉様の言ってる事、分かってなかったの!?」
「分かってンのこの世界でお前だけじゃねェか?鬼鳴様との繋がりが強いみたいだしなァ。」
羅喉様との繋がりが強い、そういえば、最初の龍巫は羅喉様の血で魔力を手に入れた。考え方によっては羅喉様も自分の先祖なのかもしれない、と翔烏は考える。
「さーて、俺はこの広い顔を活かしてイザナミ様に口聞きでもすっかァ!」
と、心見はボフッと煙を出して消えた。
「ああ、君の考えてるイザナミ様じゃないと思うよ、選挙で選ばれるんだ。今年で126代目だったかな?」
もっと詳しく聞きたかったが、その前に言迷は消えてしまった。後に残った妖怪達も各々散っていった。
ただ一人、翔烏は残された。
「お嬢様!」
家からエミーが出てきた。
「先程の騒ぎを見ました!お嬢様の言っていた事は本当だったのですね!であればこのエミーも!お嬢様をお守りすべく戦いましょう!」
とフライパンを携え闘志を燃やしている。こんなにも協力してもらえるのだから、自分も頑張ろう。そうと決まればおばあにもこの事を話して、稽古の回数を増やしてもらおうと翔烏は思った。
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人手、ならぬ妖怪手は、着々と集まって行き、翔烏の魔法の腕前も格段に上がっていた。すばるには「アナタはまだ子どもです、遊び学ぶ事の方が大切ですよ。それに、アナタはもう十分に強い。」と言われて稽古を短めに済まされる事も増えてきた。
結兎の家の座敷わらし、はちはちとこいこいにはこの間、意味深なグーサインをされた。
「あの子達があんな事したの初めて!何だろう?」
と結兎は困惑していた。『合戦』に参戦するつもりなのだろうか?
羅喉様は、相変わらず殆ど毎日翔烏の目の前に現れる。ある時はコンビニで窃盗しようとするのをなんとか食い止め、またある時は学校までついてくる等、翔烏にとって人生で最も厄介な存在の一つになっていた。
しかし、翔烏は羅喉様と縁を切ろう等とは決して考えなかった。何故なら、本当の友達になりたかったからだ。
そしてある日の深夜、辰灯神社には大勢の妖怪が集い、さながら百鬼夜行のようだった。翔烏はその最後列にいる。
翔烏が『変身』し、要石に触れ…『合戦』の火蓋が切って落とされた。
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