第2話 かいものは競争

「っは!」


 どういうことだ?俺は死んだんじゃなかったのか?まさか、連れ戻されたのか?いや、連れ戻す理由がないはずだ。あの場で殺されていてもジジィ側にはなんの不利益もない。

 つまり、ここは灯家ではない、ということだ。が、


 「おい!お前は誰だ!」

 「・・・」

 「おい!起きろよ!なんで俺の隣で寝てんだ!」

 「・・・」


 なんで寝てられるんだよ。どういうつもりだこいつは。今すぐ叩き起こして状況を聞くべきか?


 「テメェ!うちの妹となんで寝てんだよ!」

 「がふっ!?」


 何だこのぬいぐるみは!?動いてるし喋ってる!?


 「このクソガキが!大丈夫か?流華るか?」

 「んん〜、ん?」

 「ひどいことされてないか?おい!テメェ!うちの妹に手出そうとしたな!?」

 「できるわけ無いだろ!」

 「おねぇちゃん」

 「はい!」

 「少し静かにね」

 「えっ、アタシが悪いのか?」

 「おねぇちゃん」

 「はい・・・」

 「で、助けたはいいけど、君のことなんにも知らないんだ。教えてくれる?」

 「えっと、俺は灯家の麗。」

 「身長は?体重は?そういう事スるのって週に何回ぐらい?」

 「身長は167で、体重は54ぐらいだ」

 「何回?」

 「別にいいだろ!そんなこと!今度はこっちから質問だ!ここはどこでお前は誰だ!そしてそこのぬいぐるみは何だよ!」

 「ここは白霊びゃくりょう家の領道近くの政道せいどう。で、このぬいぐるみはおねぇちゃん。で、私は君のおねぇちゃんの流華。」

 「俺におねぇちゃんなんていねぇよ!いるのは父様と母様と叶だけだ!」

 「でも今はいないみたいだね。あのとき喧嘩してたのは灯家の当主でしょ?捨てられたんじゃないの?」


 そうだった。もう、俺は灯家の人間じゃなくなっちまった。ジジィに右腕ごともがれて・・・ない!?


 「何だこの気持ち悪いのは!?」

 「麗くんの技じゃないの?」

 

 これが?俺の?一応腕の形はかたどってはいるけど・・・ケッカンが剥き出しの状態で腕の形を作ってる。キモ。

 

 「だいぶ個性的な技だね」

 「何だこりゃ、ちゃんと動くようになってるぞ?どういう仕組なんだ?」

 「麗くんの技ってなに?」

 「ケッカンだってさ。灯家の領道から出るときに使ったぐらいなんだけど、こんなことにも使えるんだな」

 「他に怪我とかはない?」

 「いろんなところが潰れたり折れたりしてたけど・・・」

 「全部治ってるみたいだね」

 「じゃ、遠慮なく」


 瞬間、ルカ?が俺の右手らしきものに手刀を振り下ろしていた。


 「いった!・・・くねぇぞ?」

 「なるほど、だいぶ硬いね。視た目よりも硬いみたい」 

 「あの〜、流華ちゃん?いつまで黙っとけばいいですか?」

 「おっと、そうだった。気になることは多いと思うけど、とりあえずご飯にしよう。もう朝ごはんの時間だしね」

 



ーーーーーーーーーー




 


 

 「「「ごちそうさまでした」」」

 「さて、何から聞きたい?」

 「ここはどこなんだ?」

 「ここは君を拾った灯家寄りの白霊家の領道側から正反対ぐらいにある政道」

 「?」

 「政道って知らない?どれくらいのことを知ってるの?」

 「灯家が九州のトップにたってるってことと、領道面積も九州でトップってことぐらい。政道は、名前だけぐらいなら」

 「OK、最初から説明しよう。

 まずは領道からね。領道っていうのは、家が治める道、つまり領土みたいなものだよ。他家の人はその領道に見合うお金を払って、住まわせてもらったり、領道を通ったりしてるんだ」

 「次に政道、これは日本の根っことも言える政府が管理する領道のことだね。

 これは領道と違って、通るのにお金を払う必要はない。

 だけど、政道は大きい道ばっかりだから、皆が使うと、土地が狭くなっちゃったり、細かいところにいけなくなったりしちゃう」

 「そしてここは白霊家そばの政道、で、私達の家」

 「他になにか知りたいことは?」

 「お前は誰なんだよ」

 「ルカおねぇちゃんって呼んでくれたら答えてあげる」

 「いいから」

 「わかった。えっと「流華、アタシから話す」

 「話す気はなかったが、流華がお前をここに住まわせる気だからな。ここに住むんだったら、お前は家族だ。そして流華は絶対だ」

 「お、おう?」

 「アタシたち姉妹は、もとは白霊家だ」

 「じゃ、なんでこんなところに」

 「逃げ出した」

 「逃げ出す途中で、何人も殺した。流華にはあんなことさせたくなかった」

 「で、あんたはなんでそんな姿に?」

 「一回死んだ」

 「んで、とりあえずの依り代としてぬいぐるみに憑いた」

 「憑いたって、白霊家の技って?」

 「心霊とか神とかだな。アタシは神にできることだったら何でもできる」

 「で、ルカおねぇちゃんは人の魂を視たり、取り出したり、集めたりできるよ」

 「お前の技はどんななんだよ麗」

 「こういうの」


 俺はドバっと左手からケッカンを出した。


 「おいおい何だよこりゃ!床が埋まっちまうぜ!」

 「制限はないの?」

 「今のところ限界は無いみたいだ」

 

 突如、ぬいぐるみの姉から斬撃が飛ぶ。が、ケッカンは切れない。


 「はっは!こいつぁマジかよ!気に入ったぜこいつ!」

 「ふ〜ん、この、ケッカン?っていうやつ、一本一本に魂が籠ってる。わかった、もう戻していいよ」

 「ああ」


 あんだけ長くたくさん出ていたケッカンがどんどん俺の中に入っていく。これもどういう仕組なんだ?


 「アタシの三分の一ぐらいの威力でも切れないなんてな」

 「しかも全部魂が宿ってるから、私達がお化けとかになっても効くよ」

 「でも、使い方わかんねぇんだよな」

 「視てもらう?」

 「一体誰に?」

 「鑑定の人」

 「でも、視れるやつは日本に一人しかいないはずだろ。申請だったり何だったりめんどくさいんじゃないのか?」

 「うん、人の技を視る技を持つ人間は日本で一人ぐらいしかいないはずだからね。で、いちいち一家所ずつ一人で回るのはめんどくさい。だから政府は技でコピーを取ったはず。で、最近本体が逃げたらしい」


 なんか逃げたやつ多いな。俺もだけど。


 「でも居場所がわからねぇだろ」

 「うん。だから万物殿ばんぶつでんにいこう。」

 「万物殿?」

 「いやだ!アタシはいかねぇぞ。りょうの野郎、アタシを何円だったら買わせてくれるかってしつこいんだよ」

 「じゃあ麗くんと私でデートに行ってくるね」

 「おねぇちゃんもいきまぁす!」

 「はぁ。そうだ。麗くん、2階に空き部屋があるからそこ使ってね」

 「知ってるよ」

 「なんで?」

 「さっきケッカン伸ばしまくってたときにこの家の大きさと間取りを全部覆ってきたから」

 「便利だなぁ!お前は!」

 「隣はおねぇちゃんと私の部屋になってるから。」

 「ありがとう?」

 「気をつけろよ流華!こいつのケッカン便利だからそういうことシてくるかもしんねぇぞ!」

 「おねぇちゃん」

 「はい!もう余計なこと言いません!」

 「服、ボロボロだけど、着替えはないから、後で出かけたときになんとかしよう」

 「んじゃ、行くぞー!」


 なんか、こいつらに関する大事なことを誤魔化された気がする。しばらく様子を見ることにしよう。



ーーーーーーーーーー





 「これが、万物殿?」

 

 何だこのちっせぇボロ小屋は!?風が吹けば倒れるんじゃねぇのか?殿ってくらいだから、もっと大きいのかと思ったぜ。


 「麗くん、今ちっさって思ったでしょ」

 「しょうがねぇぜ、こんなマッチで燃え尽きそうな外観なんて見ちまったらよ。ま、でも、中にはいったら度肝ぬくぜ」

 

 中?入った瞬間に崩れるんじゃないのか?


 「こんな小屋に何があるってんだよ・・・え!?」


 広大だった。外側からは想像もできないほどの高い天井と広い床。そして、商品が並べられた陳列棚。器、剣、本、臓器?、人間だったり。


 「こりゃあほんとに万物殿だな」

 「ね、私も最初びっくりしたよ」

 「あのときは面白かったですね〜」

 「うわっ!誰だ!?」

 「おっと、ご挨拶からでしたね。私はここの店主の諒です。以後、お見知り置きを。お〜っと?ぬいぐるみさん!ついに買われに来たんですか?!」

 「気持ちワリィ!離れろ!あと、今回はアタシじゃねぇ!流華の用事だ!」

 「流華ちゃんの用件でしたか。さて、今回は一体何をお求めで?」

 「人を探してる。あの、この前政府から逃げたやつ」

 「あぁ〜人の技を見れるやつの元ですか?」

 「そう、それ」

 「あれなんですけど、ちょっとねぇ〜」

 「なにか問題でも?」

 「高いのか?そいつ」

 「あぁ、いや、うちでは値段は付けないんでね。その代わり商品は努力で勝ち取ってもらうっていう方式なんだ」

 「努力?」

 「そう!同じものがほしい人たち同士で奪い合ってもらって、勝ち残ったほうが商品を手に入れるってわけ。ちなみにこの勝負は私が賭け事として運営してるよ」

 「私達のお家もここで買った」

 「あのときは儲かりましたよ〜」

 「おい!話がズレてるぞ!さっさと内容を言えよ!」

 「かわいいぬいぐるみさんに怒られてしまいました。話を戻しましょう。今回の商品、相手は明家みょうけになります」

 「うわきっしょ!あいつらかよ!」

 「その、みょうけ?っていうのはどんな家なんだよ」

 「隠密行動に特化した家だね。たしか九州南部のほうに本家があったはず。」

 「何だよそれ!陰家じゃねぇか」

 「彼らいわく、明るいうちに相手を殺しても気づかれないほど隠密行動に長けてるからって。道じゃゴキブリ、とか陰キャ、とか呼ばれてる」

 「なんか勝てる気がしてきた」

 「甘く見ないほうがいいですよ〜ゴキブリだって強いんですからね〜」

 「と、いうと?」

 「彼らは殺す瞬間まで姿を見せません。今この場にいるかもしれないし、いないかもしれない、あなた達が参戦した途端に首をかききるかもしれない。とにかく油断ができない相手なんです。」

 「俺は別に、技でくっつければいいし」


 くっつくかわかんないけど。


 「私にはおねぇちゃんがいるし」

 「流華〜アタシ嬉しいよ」

 「はぁ、私のお気に入りなんで死んでほしくないんですけどね。ま、その気ならしょうがない。商人は売るのみ。顧客は買うのみ、ですからね」

 「じゃ、宣言してください」

 「私、流華は強奪戦に参戦することを宣言します」

 

 突然、横で風が通った。


 「参戦する意があるとみた。殺す」


 これが明家!?ずっとこの場にいたのか!?何にもわからなかったぞ!


 「おっと、お客さん。待ってくださいね。じゃないとこれ潰しますよ」

 

 諒の手を見ると、一つの脈打つ心臓が握られていた。


「チッ」


 舌打ちを一つ残して男は消えた。でも、なんで諒は心臓なんか持ってたんだ?


 「あなた達は一応お気に入りですからね。まだ死んでほしくないんですよ。ちなみに私の技はほしいと思ったものを取り寄せることです。諸々の手順とかはありますが、それさえできてしまえば、先程のように」


 もう、諒の手から心臓は消えていた。戻したんだろうか? 

 

 「さて、先程の彼が明家です。まだ、参戦は取り消せますよ」

 「今回人を探してるのは、麗くんのためだけじゃない、私達にも目的がある」

 「では、続行、ということで。それでは、またのご利用をお待ちしておりま〜す」

 「帰ろっか」

 「あ、あぁ」





ーーーーーーーーーー






 「特訓しよう」

 「特訓?」

 「私達の今のところの最高戦力はおねぇちゃんだけ」

 「よせやい!てれちまうじゃねぇか」

 「最高戦力がこんなんだから、私達がすこしでも強くならないと」

 「でもどうやって?」

 「例えばこんなふうに」


 突如部屋の隅の暗がりから忍び装束の男が現れ、そのまま倒れた。


 「何したんだよ!?」

 「魂を抜き取って殺した」


 殺した!?なんで?殺すまでしなくていいんじゃねぇのか?さっき殺されかけたけど、降参すれば許すみたいなのはねぇのかよ。


 「麗くん、強奪戦はどっちかの陣営が死ぬまでだよ。殺さなきゃいけないんだ。それが強奪戦のルール。じゃないと死ぬよ」

 

 死?また俺は命狙われてんのか?苦しいのは嫌だし、誰とも会えなくなるのも嫌だ!ジジィを殺してねぇのに死ぬのも嫌だ!まだやり残したことがある。知りたいこともある!

 母様は、本当に、あんなこと本心から言ったのかな?とか、父様はこれで良かったのかな?叶も兄がいなくなって良かったのかな?とか、でも、死んだら聞けなくなるよな。だったら、


 「いいぜ!全員殺ってやる!どんなに惨めったらしくても全員ぶっ殺してやる!」

 「いいね、その意気だよ。相手は名家だからね、どんどん練習相手は来るよ。ミスしたら死ぬけど。後ろ」

 「捕まえたぜ!」


発技はつぎー 血の独奏ソロ・ドゥ・サーン

 

 「お、発技だ。珍し」

 「発技だな、珍し」

 「何だ今のは!?血ブッシャーなった!?グロいんだけど!発技って何!?」

 






 おまけ

 「なぁ、諒さん。あんたの技って本当になんでもだせんの?」

 「えぇ、何でも出せますよ。麗くん」

 「あれ?俺名前教えてなくね?」

 「手順は教えませんが、あなたの情報が欲しくなってしまったので」

 「へぇ〜、他にもなんか出してよ!」

 「はい」

 「?!これ誰のだよ!」

 「あなたの脳ですよ。どんどんいきますよ」

 「あの!もういいですよ!もういいです!お願いします!やめてくださーい!俺の体から取り出すのはやめてくださーい」

 「良い状態の臓器でしたのに。お売りしませんか?」

 「するわけねぇだろ!もう帰る!」

 「えぇ〜、では、またのご利用を」


 

 





 

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争道 しぇふ @Ryourityo

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