初めての依頼

一時間ぐらいたっただろうか。泥だらけの朱莉が広場に戻って来た。

「見つからない。」

不知火は朱莉を見て、助言をする。

「猫は涼しい場所を好みます。そんな場所はありませんか?」

「んん~。河原はさっき行ったけど見つけられなかったよ。」

「ミミちゃんはいつもうちの納屋の箱の中で寝てるの。外に出て遊ぶこともあるよ。」

「ふむ。おうちに行って探した方がよさそうですね。高いところに登って降りられなくなっているのかもしれません。案内してくれますか?」

不知火は優しく子供に問いかける。

「うん!いいよ!」


子供のうちにつくとそこには高い木が生えていた。

耳を澄ます不知火。

「にゃー。にゃー。」

微かに猫の声を聞き取った。

「やはり、高い場所から降りられなくなったようです。朱莉さん、木の上ですよ。」

不知火は朱莉を見る。

「肉体労働はわたしなのね。わかったわよ。登って来るわ!」

ムキになる朱莉。

「落ちて怪我でもしたらどうするんですか。登らずとも枝を切ればいいのです。キャッチし損ねた時のために藁を敷きますよ。」

「なるほど。今は収穫時期だからいろんなところにあるわね。住人に声を掛けて来るわ。」

朱莉はスタスタと人集めに走った。

「みんなー!猫が木から降りられなくなっちゃったの。藁を貸して!」

あっという間に藁と協力者は集まった。町長の娘である朱莉からしたら簡単な事だった。朱莉自身の人望もあるだろうが、みんなの慕うお嬢様であるうちは我慢だ。

「この木の枝は俺が落としてやるよ危ないから、枝の下には入るな。しっかり、藁を準備しておいてくれ。」

きこりをしている若者は率先して前へでる。

「よろしくね!下は準備しておくわ!」

若者が木に登る準備をしている間の藁敷ははじまった。子供の家や隣近所に干してある藁を順々に積み重ねていく。

「これぐらいで、いいでしょう。」

不知火のOKが出たら、きこりの若者は木に登る。あっという間に猫の乗る枝に辿り着き、その枝を腰に差していたのこぎりで切り落とした。

猫は落ちる枝と共に藁の上に落ちた。

「ミミちゃん!」

子供はそれに駆け寄る。

「にゃー。」

子供に抱かれ猫は皆の前に姿を見せた。

「成功ね!みんな、ありがとう!」

朱莉は協力者達に礼を言う。


片付けが終わり、陽は暮れ始めた。

「これでお父様との交渉にも協力してもらうわよ。」

「約束は約束ですからね。お父上に伝えるあなたのビジョンを聞いて考えさせてください。」

二人は町長の屋敷に向かった。

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