朱莉のともしび

夜が明ける。

朱莉は焚き火の跡からすぐの場所で寝ていた。

「いつまで、寝ているのですか?起きてください。」

不知火が朱莉に声を掛ける。

「おはよー。寝ちゃったんだね。」

「こんな場所でも熟睡できるなら、安心です。」

「・・・どういうこと?」

「さて、キャンプを片付けて町に向かいますよ。」

「ねぇ!私と組まない?お父様の依頼より、楽しいかもしれないよ!」

「なんのことです?」

「お父様に物申すの。私達は町をよくするから、縁談を中止しろと。あなたの知恵を借りて、私が町人達のお悩みを解決していくの!結局、町をよくするための同盟結婚なら、やることは一緒でしょ?」

「あなたの事情はわかりませんが、クライアントが優先です。それに報酬はいただけるのですか?」

「もちろん!私が町長になったら、私達の町の永住権をあげちゃいます!最高でしょ?」

「素敵な夢ですが、私は定住はしないつもりですのでお父様の依頼を優先いたします。」

「なんと!・・・考えておいてね。」

弱々しく推してくる。不知火は面倒そうな表情を浮かべるがすぐに元の表情に作り直した。

「では、こうしましょう。町について今日の夕方までにそのお困りごと相談を1つこなしてみてください。」

「いいの?」

朱莉は目を丸くする。最初から断られることはわかっていた。しかし、思ってもみないチャンスが目の前にできた。

「時間がもったいないですから、もう行きますよ。夕方にはクライアントとの約束があるので。」

「ありがとう!」

先を歩く不知火の跡を朱莉は追いかけていく。


歩くこと、一時間程だろうか。町が見えてきた。

「この先が私の町です。町の人は穏やかで争いごとは好みません。隣の町や村は今も勢力争いをしていますが、私達、燎の住人は介入いたしません。のはずなのに、お父様は勢力を拡大させた御曹司に私を預けたいらしい。おかしいよね?」

「事情はわかりました。詳しくはクライアントに尋ねます。あなたはあなたのやるべく事を考えてください。」

「そうね。町に着いたら広場に行ってみましょう。集会も団らんもそこでするわ。まずは情報集めをしましょう。」

町にどんどん近づいていく。木造の建物に土の壁、屋根には板金が張られている。

町の門をくぐるとそこに見えるのは収穫を終えて、町に戻って来た人々。ちょうど、穀物の収穫時期のようだ。町のいたるところに稲が干してある。

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