お互いのこと

キャンプに戻り、不知火は拾ってきた薪をくべる。

火は新しく加わる栄養をゆっくりと染めていく。

これが絶たれれば、消えてしまうのだから、儚いものだ。

不知火は明かりの届く場所に旅のバックを持ってくる。

取り出したのはパン二切れ。

「こんな物しか無ありませんよ。」

「・・・うん!これは料理のしようがないね。そうだ!ジャムやバターはない?」

「そんな物を入れていたらカバンの中はベトベトです。このまま召し上がりください。」

「質素な生活してるのね。」

「節約と言ってください。お嬢様。」

「その言い方、気に入らないわね。そりゃ、町長の娘として町を良くしたいとは思うけど、あなたの様な食事の人もいると思う。」

朱莉の言葉を聞いて、不知火は気がついた。

彼女の底なしに感じられる自信の出どころと毅然とした態度。背負っていいるモノがあるのだなと悟る。

「そうですか。では、私の取引先の関係者の方ということですね。」

「お父様になにか頼まれているの?」

「交渉の話ですのでお話はできかねます。」

「あぁ、お父様らしい。なんでも内緒で事を進める。私の婚姻の話なんて仕組まれたとしか言えないもの。」

「・・・私は深くは聞きませんよ。」

「え?気にならないの!?聞いてよ!」

「あまり首を突っ込みたい話題では無いので。」

「えー。つまんないの。」

朱莉はふてくされ、暗い崖の先を見る。そこには燎という町の明かりが見えた。

不知火は再び朱莉にパンを差し出す。

「焚き火の近くで少し温めました。暖かいパンはいかがですか?」

「こんな食べ方もあるんだ。ありがとう。いただきます。」

朱莉はそれを受け取り、口に運ぶ。

「・・・。あなたはどこで育ったの?」

「とても良い環境とはいえないとかろです。」

「私は悪いつもりで聞いたわけじゃないから、気を悪くしないでね。」

「・・・。物を盗りあって生活する様な場所です。話すことがあれば話しましょう。それより、夜が明けたら町に向かいますよ。しっかり休んでください。」

「ありがとう。」

不知火は焚き火の日が当たらない場所へ姿を消す様に立ち退いた。

残された朱莉は焚き火に目をやる。焚き火は虫を誘い、自らの熱の中にそれを取り込んでも姿は変えない。

物を盗りあう生活。それは朱莉には想像ができないことだった。目の前の火の様に揺るがない意思が必要なのだろうか。

明日はお父様に次の提案をしてみよう。

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