第四章 解散ライブ

第四章 解散ライブ

 起動しない理由は、すぐに判明した。

 博士ドクターの頭部を開けて確認したキティラーが、ぽつりと漏らした。

「脳が、ショートしてる」

 博士ドクターは、通電回路を焼き切っていたのだ。チップは、黒く焦げ、基盤は溶けて固まっていた。

 コロンが息を呑む。

「まさか、土星人サタンが?」

「それは考えられない。博士ドクターは無機物なんだから」

 みんなの慌てようは、一個の電化製品が動作不能になった、という冷めた態度では済まななかった。

「高圧電流を流して、回路を焼いたんだよ」

博士ドクターが自分で?」

 チーズの問いに、キティラーは素っ気なく一言「そう」とだけ答えた。

「どうしてそんなことを?」

 今度はスイだ。

 キティラーが、スイのほうへ向き直った。

博士ドクター自身が前に言ってた通り、マイクロアースの電力の残量は、もう限界に近いはず」

「それは私たちも知ってましたけど」

「だからだよ」

 怪訝そうにするスイに、キティラーは説明を加える。

「万一、ライブ中に機材がトラブルを起こして、大量に電力を消費する事態に陥ったとしても、電力切れにならないように。より確実にライブを終えられるように、電力確保を最優先すべきって考えて、決断したんだよ。

 理由はそれしか考えられない」

「もう私たちに教えることはなくなった、と……」

 OPSへのMIA(ミックスド・アイドル・アーツ)の伝承は終えた。

 だから、自身の存在する理由もなくなった。

 そういうことなのか。

 僕らが義理で再び電源を入れてしまわないよう、ショートさせてまで……。

 アンドロイドらしいドライな選択。潔い最期だった。

「それにしても、一言くらい……」

 チーズはなおも名残惜しそうにしていたけど、博士ドクターの頭脳のチップに〈名残惜しい〉という感性は設定されていなかったのだろう。

 作詞、作曲から始まり、ここで言うライブの概念、行う理由を説き、MIA(ミックスド・アイドル・アーツ)の思想を提唱し、メンバーに実践させて完成まで持っていき、叱咤してライブへと送り出し。

 今回、二回目のライブに向けては、グループの新たな方向性を示し、リハーサルも完了した。もう、だいじょうぶ。メンバーたちは、プロデューサーなしでもライブを成功させられる。

 そう確信したからこそ、博士ドクターは、最後のメッセージとして、ステージを指さした格好のまま、自らその生涯を閉じたのだ。

 博士ドクターの亡骸は、リモートチャージ場――客席右手やや奥の位置に、動作が止まった時のままの姿勢で安置されることとなった。


 怪我のため、万全からは程遠い体調で臨まざるを得ないメンバーもいた解散ライブ。

 逆風吹きすさぶ中、みんな本当によくやった。

 観てるだけのこっちが、笑わされたり、泣かされたり。いろいろあった。

 あっという間だった。

 ライブは終わった。

 終演と同時に、OPSとしてのグループ活動も終了したけど、余韻に浸っている暇はなかった。

 結果は二種類しかない。

 成功か、失敗か。

 ライブは、神を動かすに足る活力を与えられたのか。

 答えは出た。

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