第3話 高額案件の告知

 列のざわめきが一瞬で静まり返った。

 オフィス前の掲示板に、係員が新しい依頼票を貼り出したのだ。

 厚手の紙には、赤い印字で危険度が示されている。


 ──危険度レベル3/報酬額:基準の五倍。


 「セキヤ地下帯……第七構造体?」

 ベルは声に出して読んだ。耳慣れた地名だが、詳しくは知らない。


 ラスピルの外壁から南東へ十数キロ、地中深くに広がる巨大な遺構のひとつ。企業の統治区画でも、立入は厳しく制限されている場所だ。


 「また死人が出るやつだな」

 背後で誰かが吐き捨てる。


 それも無理はない。セキヤ地下帯は地殻の不安定さと、古い警備機構の残骸が混在する危険地帯だ。命と引き換えの高額報酬──それがこの案件の常だった。


 「どうする?」

 ベルはセエレに視線を送った。


 彼女は依頼票から目を離さずに答える。

 「行く。食っていくためには、これしかない」

 その声に迷いはなかった。


 列の中では、すでに数人の猛者たちが申し込み用紙に名前を書き込んでいる。

 ベルはため息を一つつき、シオリの窓口へ歩いた。


 「俺とセエレ、二人分だ。登録頼む」

 「……あんたら、本気で行く気?」

 シオリは端末を操作しながら、眉をひそめる。


 「止めても聞かないだろ?」

 「……ま、そういう顔してるね」

 登録完了の電子音が鳴る。


 紙片のような依頼証が二人の手に渡された瞬間、ベルは妙な胸騒ぎを覚えた。

 外壁の向こう──そこにあるのは報酬か、それとも……。

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