第2話 仕事待ちの列
オフィス前の広場には、すでに三十人ほどのワーカーが集まっていた。
背中に掘削用ドリルを背負った者、修理痕だらけの外骨格をまとった者、手ぶらで立ち尽くす者──装備も表情も、バラバラだ。
列の前方では、係員が古びた端末で身元認証を行っている。
「ワーカータグ、読み取りエラーです」
「いや、昨日まで通ってたはずだろ!」
怒鳴る男を、企業警備の二人が無言で押し出した。並んでいた者たちは視線を逸らし、列が一つ詰まる。
ベルはセエレの後ろに並びながら、小声でつぶやいた。
「……毎日これだ。昨日まで働けてた奴が、次の日には資格剥奪」
「規約違反の理由なんて、誰も教えてくれない」
セエレの声は淡々としているが、眼差しは冷えていた。
やがて、受付窓口の一つから明るい声が響いた。
「おー、ベルじゃん!珍しく朝から並んでるね」
シオリだった。栗色の髪を後ろでまとめ、ワーカー用の簡易端末を器用に操作している。
「今日はセエレも一緒?これはレアだなー」
「珍しい案件が出そうだからな」
ベルが答えると、シオリは少し眉を上げた。
「ふーん……そういう勘、当たるときは当たるんだよね。ま、気をつけてよ」
その後ろで、別の係員が声を張り上げた。
「本日、レベル1案件は満員。残りはレベル2以上のみ」
途端に列のあちこちからため息が漏れた。レベル2は危険度が跳ね上がる。命を落とす者も珍しくない。
ベルはセエレと視線を交わす。
彼らが生き延びるためには、危険を避ける余裕はなかった。
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